調剤報酬の支払いは請求月から2カ月後になるため、資金繰りに悩んでいませんか。
調剤薬局で急な支払いや、設備の新設などにより資金が必要になった場合は、調剤報酬ファクタリングの利用が有効です。
この記事では資金繰りに悩んでいる調剤薬局の経営者向けに、調剤報酬ファクタリングとは何か、利用するメリット・デメリット、有効な利用例について解説しています。
ファクタリングを正しく理解して利用することで、資金繰りの悩みが解消し、経営が安定しますので参考にしてください。
目次
調剤報酬ファクタリングは薬局が対象
調剤報酬ファクタリングとは、調剤薬局で作成されたレセプトを債権として売却し、資金調達する方法です。
調剤報酬ファクタリングについて、以下の2つに分けて解説していきます。
- 調剤報酬債権を売却して資金調達する仕組み
- 医療ファクタリングの1つである
薬局で資金繰りに悩んでいる方は、調剤報酬ファクタリングを利用することで改善が期待できるため、仕組みをしっかり理解しましょう。
調剤報酬債権を売却して資金調達する仕組み
調剤報酬が入金されるのは請求月から2カ月後になるのに対し、調剤報酬ファクタリングは最短
2週間で資金が入手できます。
調剤薬局の資金となるのは主に以下の2つです。
- 患者さんの年齢や所得に応じた自己負担割合分の調剤報酬
- 店内にある健康グッズや雑貨などの売上
患者さんの自己負担割合以外の負担分は、レセプトを支払機関に提出することで2カ月後に入金される仕組みです。
例えば3割負担であれば、患者さんが調剤薬局の窓口にて3割分の代金を支払い、残りの7割が支払機関から2カ月後支払われる流れになります。
報酬の大部分が2カ月後に支払われることになっているため、その期間にまとまった資金が必要になった場合にファクタリングを利用するのがおすすめです。
医療ファクタリングの1つである
調剤報酬ファクタリングは、診療報酬・介護報酬と合わせて医療ファクタリングの1つとされています。
それぞれの対象となる機関や違いについて以下にまとめました。
- 診療報酬ファクタリング:病院や診療所において発生する診療報酬債権を売却して行われるファクタリング
- 介護報酬ファクタリング:介護保険を適応して介護サービスを行った報酬(介護報酬)を売却して行われるファクタリング
- 調剤報酬ファクタリング:医師が発行した処方箋の元、調剤した薬に対して発生した報酬(調剤報酬)を売却して行われるファクタリング
医療ファクタリングの違いは、対象となる機関と取り扱う債権の種類が異なる点であり、ファクタリングを利用する流れはいずれも同じです。
調剤報酬ファクタリングのメリット
調剤報酬ファクタリングには、以下の4つのメリットがあります。
- 通常2カ月後になる報酬を最短2週間で入手可能
- 売掛先が国になるため高率で買取してくれる
- 手数料が安く銀行融資より利用しやすい
- 初回は2カ月分をファクタリングするため、まとまった資金が入手可能
入金スピードの早さや審査に通りやすいなどのメリットについて、理由を含め解説します。
通常2カ月後になる報酬を最短2週間で入手可能
ファクタリングを利用すると、通常入金まで2カ月かかるところを最短2週間で入金されます。
ファクタリングは「融資」ではなく「売買契約」にあたるため、売掛債権(調剤報酬ファクタリングの場合はレセプト)の信頼度が高ければ短期間で審査が済み、資金調達できるからです。
売掛先が国になるため高率で買取してくれる
調剤報酬ファクタリングは、調剤薬局で発生するレセプトが売掛債権になります。
売掛先は国民健康保険協会や全国健康保険協会などの国が運営する機関となることから、売掛金の未回収リスクがほぼないと判断され高確率で買取してくれます。
手数料が安く銀行融資より利用しやすい
調剤報酬ファクタリングの手数料は、0.25〜1%未満が相場と言われています。
売掛元は国の機関であることから、売掛金の未回収リスクを考えなくて良いと判断されているためです。
銀行融資の金利の相場は2〜3%であり、調剤報酬ファクタリングの方が安いことが分かります。
加えて銀行融資は保証人や担保などの準備も必要となる場合が多く、利用までの手間もありますが、ファクタリングは必要ありません。
ファクタリングには2社間、3社間、医療と種類があり、それぞれの手数料について以下の表を参照ください。
ファクタリングの種類 | 手数料 |
---|---|
2社間 | 10~20% |
3社間 | 1~10% |
医療(診療・介護・調剤) | 0.25~1%未満 |
ファクタリングの中でも手数料が安いことが分かります。
以上のことから、銀行融資やその他のファクタリングの中でも、医療ファクタリングは利用しやすいと言えるでしょう。
初回は2カ月分をファクタリングするため、まとまった資金が入手可能
本来の医療報酬は、8月分を9月10日に請求し10月25日に入金される仕組みです。
8月にファクタリング契約をした場合は、7月分のレセプトが売掛債権となりファクタリングの対象になります。
8月は元々6月に請求した報酬が入金される月となるため、6月分とファクタリングした7月分を合わせた2カ月分が入金されます。
以上の仕組みから、初回は2カ月分の資金が入手可能です。
新しい機器を導入したい場合や、従業員の増員などまとまった資金が必要になった場合におすすめの利用方法です。
調剤報酬ファクタリングのデメリット
調剤報酬ファクタリングの3つのデメリットを紹介します。
- 掛け目が設定されており、100%債権額が支給されない
- ファクタリングの利用が長期化するおそれがある
- 債権譲渡登記が必要になることで出費が増える
資金額が減ってしまう可能性や、資金繰りに関するデメリットになるためしっかり抑えておきましょう。
掛け目が設定されており、100%債権額が支給されない
ファクタリング会社は、レセプト(売掛債権)に対し「最大〇円まで出せます」という掛け目を設定しており、相場は80%と言われています。
調剤薬局が提出したレセプトの内容を審査機関が調査し、妥当と判断された報酬のみ入金されるため、レセプトの金額全てが支払われるとは言い切れないからです。
掛け目を設定せずに売掛債権額を100%支給した後に、審査機関から不備と判断され減額されてしまった場合、ファクタリング会社が損をしてしまうため、掛け目が設定されています。
掛け目は、審査機関から正式な支給額が決定した後返還される仕組みになっているため、安心してください。
以下に掛け目が返還されるまでの流れを記載していますので参照ください。
- ファクタリング会社から売掛債権の80%の金額が支給される
- 審査機関から正式な報酬額決定の通知が届く
- ファクタリング会社は残りの20%を利用者に支払う
支払機関からの正式な報酬額決定通知が届くのは、請求月のおよそ2カ月後になるため掛け目の20%分の代金も2カ月後になります。
最初に支給されるのは、レセプトの80%程度の金額であることを理解した上で、調剤報酬ファクタリングを利用しましょう。
ファクタリングの利用が長期化するおそれがある
ファクタリングは本来入金される時期を前倒しして、手数料や掛け目を差し引いた資金を入手する方法です。
資金繰り改善のために、一時的に利用する場合にはメリットが大きい制度ですが、ファクタリングに依存して長期化してしまうと、手数料は引かれ続けるため結果的に膨大な資金を失うことになりかねません。
薬局内で患者さんに購入してもらえるようなアイテムを増やしたり、薬の在庫管理を徹底し余分な発注を避けるなど、手元に資金を残すような工夫をして、ファクタリングは緊急時用の措置として考えましょう。
ファクタリング会社によっては契約期間を1〜2年に設定している場合もあるため、自社にとって最適な期間かどうかを確認することも必要です。
債権譲渡登記が必要になることで出費が増える
調剤報酬ファクタリングを利用する際は「A薬局が持っているレセプト(売掛債権)をBファクタリング会社に売却します」と公的に証明する、債権譲渡登記が必要になります。
債権譲渡登記を発行するためには以下の費用が発生します。
- 登録免許税:7,500円
- 発行手続きを行う司法書士への報酬:5~10万円
資金繰りの悩みを解消するためにファクタリングを利用するはずが、手数料や掛け目、書類にかかる諸費用で手元に入る資金がかなり減ってしまう可能性があることを認識しておきましょう。
調剤報酬ファクタリング利用の手順
調剤報酬ファクタリングを利用する際の流れを、以下の5つの項目に分けて解説していきます。
- レセプトをファクタリング会社に売却する
- 債権譲渡契約を締結する
- 審査後掛け目を引いた代金が入金される
- 請求先がファクタリング会社に明細書の金額を入金する
- ファクタリング会社は掛け目分の代金を利用者に返還する
手順①レセプトをファクタリング会社に売却する
1カ月分のレセプトの作成が完了したら、ファクタリング会社に調剤報酬債権の売却を依頼します。
申し込みの際は以下の書類が必要になる場合があるため、事前に用意しておくと安心です。
- レセプト(調剤報酬明細書)
- 調剤薬局などの概要が分かるもの
- 会社謄本
- 印鑑証明書
- 納税証明書
- 代表者の本人確認ができる書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
必要書類はファクタリング会社によって異なるため、利用する会社に問い合わせて確認しましょう。
手順②債権譲渡契約を締結する
必要書類を基に審査を行い、契約をします。
債権元が社保や国保を扱う国の機関であるため審査に落ちることはほとんどないでしょう。
審査にかかる期間は、1〜2週間が相場です。
このとき、ファクタリングの利用を債権元に通知されますが、国の機関であるため今後の取引が不利になることはありませんので安心して利用できます。
手順③審査後掛け目を引いた代金が入金される
実際に入金される金額は【調剤報酬債権の金額×掛け目(相場80%)‐手数料(相場0.25〜1%)】となります。
具体例として、売掛債権が100万円、掛け目が80%、手数料が1%だった場合の支給額を計算します。
100万円(売掛債権)×0.8(掛け目80%)=80万円(支給可能な金額)
80万円(支給可能額)‐8万円(手数料1%)=72万円(支給額)
100万円の売掛債権が72万円まで減額されて支給されます。
掛け目や手数料を考慮して、ファクタリングの利用を検討しましょう。
掛け目が引かれた金額は、審査通過後の翌日に入金されるのが一般的です。
手順④請求先がファクタリング会社に明細書の金額を入金する
レセプトを提出した審査機関が、明細書の内容を確認後報酬金額が確定します。
審査機関がファクタリング会社に支払いをします。
手順⑤ファクタリング会社は掛け目分の代金を利用者に返還する
報酬金額が確定した後にファクタリング会社は、掛け目分の代金を利用者に返還します。
報酬金額の確定にはおよそ2カ月かかるため、掛け目分の支払いも同様の期間がかかりますので注意しましょう。
調剤報酬ファクタリングの利用をおすすめする4つの例
実際にどのような場面で調剤報酬ファクタリングの利用が有効なのか、具体的な例を4つ紹介します。
- 薬の在庫不足により、急にまとまった資金が必要になった場合
- 事業の拡大により設備費がかかることになった場合
- 薬局内で勤務する薬剤師の増員に伴い、人件費が発生した場合
- 銀行からの融資は避けたい、または審査に落ちてしまった場合
自社の状況に近い例があるか確認しましょう。
薬の在庫不足により、急にまとまった資金が必要になった場合
インフルエンザや胃腸風邪など、季節によって流行がある病気に対する薬は、急に流行り始めると在庫不足になりがちです。
なかには高額な薬もあり、突然まとまった発注が必要になったにもかかわらず資金が手元にないという事態になった場合に、調剤報酬ファクタリングの利用がおすすめです。
事業の拡大により設備費がかかることになった場合
調剤に必要な機材や、オンラインで処方箋受付を行うシステムの導入など新たに設備を整える場合には多額の資金が必要になります。
支払い期日までに報酬が入らない場合は、調剤報酬ファクタリングで資金を前倒しして入手することで支払いが可能です。
薬局内で勤務する薬剤師の増員に伴い、人件費が発生した場合
新しく薬剤師を雇った場合、1カ月後には1人分の給料を余計に確保しなければなりません。
またボーナス時期にはより多額の資金が必要となることから、ファクタリングの利用で資金を確保し、従業員に支払うことができます。
銀行からの融資は避けたい、または審査に落ちてしまった場合
銀行融資は「借入」になるため、利用は慎重になります。
審査に落ちてしまった場合でも、ファクタリングの利用は可能です。
調剤報酬債権は、社保や国保などの国の機関から支払われる報酬であることから、代金の未払いの可能性は限りなく低く審査が通りやすいからです。
開業当初に銀行融資を受けたためこれ以上の融資は避けたい場合や、審査が通らなかった場合の調剤報酬ファクタリングの利用は有効であると言えます。
調剤報酬ファクタリングは調剤薬局の資金繰り改善に効果的
国保や社保からの調剤報酬の支払いは、請求月から2カ月後になるため、資金繰りに悩んでいる薬局には調剤報酬ファクタリングが有効です。
ファクタリングが有効な理由やポイントについて以下にまとめます。
- 通常2カ月後になる支払いを、ファクタリングを依頼してから最短2週間程度で資金調達が可能
- 審査に通りやすく、銀行融資より利用しやすい
- 掛け目が設定されており、報酬額の80%が支払われる場合が多い
- ファクタリングに頼りすぎると長期化するおそれがあり、資金繰りが返って難しくなる場合がある
一時的な資金繰りを改善するためのファクタリング利用は有効な手段ですが、長期化することで手数料が膨大な金額になり、結果的に資金繰りがうまくいかない危険性もあります。
ファクタリングに頼らない資金繰りの工夫をして、緊急時などのタイミングを見て有効に利用しましょう。