診療報酬は請求してから入金までに時間がかかるため、資金繰りに苦労している医療機関も多いのではないでしょうか。
そのような医療機関の資金繰り改善に有効なのが、診療報酬債権ファクタリングです。
診療報酬債権ファクタリングを知っておくと、負債を抱えずに資金調達ができるため資金繰り改善に寄与するでしょう。
この記事では、近年注目を集めている診療報酬債権ファクタリングの仕組みやメリット・デメリット、利用する際の注意点を解説していきます。
いざという時の備えとして仕組みを理解し、いつでも活用できるようにしておきましょう。
目次
診療報酬債権ファクタリングの仕組み
ファクタリングにはさまざまな種類がありますが、医療機関を対象としたファクタリングを診療報酬債権ファクタリングといいます。
未入金の診療報酬債権をファクタリング会社が買い取り、本来の入金日より前に資金化する仕組みです。
以下は、診療報酬が入金されるまでの期間を表す一例です。
5月1日 診療
6月15日頃 請求
7月20~31日 入金
このように、5月1日に診療した分の診療報酬が全額入金されるまでに約3か月のタイムラグが発生してしまうため、その間に資金繰りが悪化することも十分に考えられます。
こうした医療機関の資金ニーズに応えるのが診療報酬債権ファクタリングです。
診療報酬債権ファクタリングは、診療報酬債権をファクタリング会社へ売却することで入金日を待たずに資金化できるため、手元資金ではまかないきれない支出が発生した場合などに適しています。
3社間ファクタリングが基本
診療報酬債権ファクタリングは、3社間ファクタリングが一般的です。
そもそもファクタリングには、2社間と3社間があります。
両者の特徴を簡単にまとめると以下の通りです。
2社間 | 3社間 | |
---|---|---|
契約主体 | 利用者とファクタリング会社 | 利用者とファクタリング会社と売掛先 |
売掛先への通知 | なし | あり |
手数料 | 高い(約10~20%) | 低い(約2~9%) |
民間企業の場合、売掛先への通知・同意が不要な2社間ファクタリングの需要が高まっています。
民間企業同士の取引では、ファクタリングを利用していることが売掛先に知られることで「この会社は資金繰りがうまくいっていないのでは?」と勘繰られ、取引中止となるケースも考えられるからです。
しかし、医療機関の場合は、報酬請求先である審査支払機関が公的機関であるため、ファクタリング利用によって関係性が崩れることはまずありません。
そのため、信用不安に悩むことなく、安心して3社間ファクタリングが利用できます。
診療報酬債権ファクタリング利用の流れ
診療報酬債権ファクタリングを利用する流れは以下の通りです。
- 医療機関がレセプトを発行する
- 医療機関がファクタリング会社へ申し込み、債権譲渡契約を結ぶ
- ファクタリング会社が審査支払機関に債権譲渡を通知し、承諾を得る
- ファクタリング会社は医療機関へ買取手数料を差し引いた掛け目分の金額を支払う
- 医療機関から審査支払機関へ診療報酬の請求を行う
- 審査支払機関はレセプトを審査し、問題がなければファクタリング会社へ診療報酬を支払う
- ファクタリング会社から医療機関へ掛け目で差し引かれた分の金額を支払う
診療報酬債権ファクタリングは、民間企業で行われている3社間ファクタリングとほぼ同じ仕組みです。
しかし、売掛先である審査支払機関が国の機関であるため、倒産等による未回収リスクや、債権譲渡通知をすることによる信用不安がありません。
そのため、医療機関にとって安心して利用できるサービスです。
診療報酬債権ファクタリングを利用できる事業者
診療報酬債権ファクタリングは、以下のように医療にかかわる事業者が利用できます。
- 病院やクリニックを経営する事業者:診療報酬債権ファクタリング
- 調剤薬局を経営する事業者:調剤報酬債権ファクタリング
- 介護事業を行う事業者:介護報酬債権ファクタリング
上記のように、各事業ごとの債権が診療報酬債権ファクタリングに利用できる債権です。
医療に関連する債権のファクタリングサービスをまとめて「医療ファクタリング」と呼ぶこともあります。
診療報酬債権ファクタリングを利用する背景
そもそも診療報酬債権ファクタリングはなぜ利用されるようになったのでしょうか。
ファクタリングが利用されるということは、資金繰りが厳しいと感じる医療機関が少なからずあるということです。
医療機関が資金繰りに苦しむ理由は、収入の大半を占める診療報酬が入金されるまでのタイムラグが大きく関係しています。
医療機関が診療報酬を受け取るまでの流れ
医療機関が診療報酬の全額を受け取るまで約3ヶ月がかかります。
医療機関が診療報酬を受け取るまでの流れは以下の通りです。
- 診療後、患者から診療報酬の1~3割が支払われる(6歳以上70歳未満は3割)
- 残りの診療報酬を、1ヶ月分まとめて審査支払機関である国民健康保険団体連合会(国保)もしくは社会保険診療報酬支払基金(社保)に請求する
- レセプトが審査される
- 問題がなければ、請求月の翌々月に残りの診療報酬が支払われる
もしレセプトに不備や不明点が発見された場合は、支払審査機関から返戻されます。
返戻された場合は、修正して再提出するため入金までにさらに時間がかかってしまうのです。
診療報酬が全額手元に入るまでの間に、不測の事態によって経営資金が足りなくなるケースも考えられます。
一時的に資金が足りない・急な支出が発生した場合に診療報酬債権ファクタリングを利用することで、資金繰りを安定させることが可能なのです。
診療報酬債権ファクタリングのメリット
診療報酬債権ファクタリングを利用するメリットは以下の通りです。
- 資金繰り改善に寄与する
- 審査に通りやすい
- 担保・保証人が不要
詳しく解説していきます。
資金繰り改善に寄与する
診療報酬債権ファクタリングを利用すれば、入金サイクルを最大1~2ヶ月程早められるため、資金繰り改善に寄与します。
診療報酬は、請求した月の翌々月20日~31日頃に入金されることが多く、民間企業の売掛債権よりも受け取り期間が長いのが特徴です。
入金を待つ間も、設備費や人件費などの支出は発生しているため、手元の資金不足に悩まされることも多々あります。
特に開業したばかりの医療機関は、最初の3ヶ月は窓口収入を含む手元資金のみで経営していかなければなりません。
そこで診療報酬債権ファクタリングを利用することで、本来約3ヶ月かかる入金日を待つことなく現金化できるため手元の資金不足を解消し、資金繰り改善に寄与するのです。
審査に通りやすい
診療報酬債権ファクタリングは、審査に通りやすい点がメリットです。
ファクタリング会社は、法律により設立された民間法人である審査支払機関(国保・社保)から診療報酬を回収するため、未回収リスクが非常に低いことが理由です。
未回収リスクとは、倒産等により売掛金を回収できないリスクをいいます。
民間企業の場合、業績不振等で売掛金を支払う前に倒産してしまうケースも珍しくありません。
そして、ファクタリングは売掛債権の売買であるため、万が一、売掛金を回収できなかった分の負債はファクタリング会社が負うこととなるのです。
通常のファクタリングでは、未回収リスクが高ければ高いほどファクタリング会社が損害を被る可能性が高いため、審査は厳しくなります。
しかし、診療報酬債権ファクタリング会社の場合は、公的機関である審査支払機関が倒産等により診療報酬を支払えないリスクはまずありません。
そのため、未回収リスクは非常に低いと判断され、審査にも通りやすいのです。
担保・保証人が不要
融資の場合、融資条件として担保や保証人が必要となるケースもありますが、ファクタリングでは担保や保証人は一切不要で資金調達が可能です。
ファクタリングは、借入金ではなく売掛債権の売買であるからです。
担保や保証人が不要であることから、面倒な手続きもなく申し込み手続き・審査がスムーズに行えます。
また、借入金ではないため決算書に与える影響もありません。
そのため、ファクタリングを利用しながら、さらなる設備投資や事業拡大のために銀行融資を受けることも可能です。
診療報酬債権ファクタリングのデメリット
資金繰りが一時的にうまくいっていない場合の救済措置として有効な診療報酬債権ファクタリングですが、以下の通りデメリットも存在します。
- 手数料がかかる
- 債権額以上の資金調達はできない
ひとつずつ解説していきます。
手数料がかかる
診療報酬債ファクタリングを利用するには手数料がかかります。
しかし、通常のファクタリングと比較すると未回収リスクが低いことから、手数料も非常に安いことも特徴です。
診療報酬債権ファクタリング利用にかかる手数料は以下の通りです。
ファクタリングの種類 | 手数料 | |
---|---|---|
医療ファクタリング | 診療報酬債権ファクタリング | 5%未満 |
通常ファクタリング | 3社間ファクタリング | 2~9% |
2社間ファクタリング | 10~20% |
診療報酬債権ファクタリングは、診療報酬の回収先が国保・社保であることから未回収リスクが非常に低く、その分手数料も通常ファクタリングに比べて安くなっています。
しかし、本来ならば2~3ヶ月後の期日まで待たなければならない診療報酬債権を期日前に資金化するため、どうしても手数料は発生し、手元に残るお金は少なくなってしまいます。
手数料が安いからとむやみに利用するのではなく、どうしても資金繰りがうまくいかないとき等に絞って利用しましょう。
債権額以上の資金調達はできない
診療報酬債権ファクタリングは診療報酬債権を買い取るサービスであるため、あたりまえですが債権額以上の資金調達はできません。
医療機関で使用される医療機器は、数千万するものも珍しくありません。
たとえば、3,000万円する医療機器の導入を考えている場合、銀行融資なら調達できる可能性は十分にあります。
しかし、ファクタリングで必要資金を調達しようとすると、3,000万円以上の診療報酬債権を用意しなければならないのです。
このように、ファクタリングは大規模な資金調達には向かない一面があるため、一時的な資金繰りの改善に活用するようにしましょう。
診療報酬債権ファクタリングの注意点
診療報酬債権ファクタリングを利用する際は、以下の2点に注意しましょう。
- 100%の債権額を資金化できるわけではない
- 依存しないような資金計画が必要
ひとつずつ解説していきます。
100%の債権額を資金化できるわけではない
診療報酬債権ファクタリングでは、売掛債権額に対して約70〜90%の掛け目が設定されているため、債権額の100%を資金化できるわけではありません。
掛け目とは、ファクタリング業者が回収リスクを避けるために設定している買取可能割合です。
掛け目によって差し引かれた分の金額は、無事にファクタリング会社が診療報酬を回収できた後に医療機関へ支払われます。
たとえば、売掛債権額が1,000万円で掛け目80%、手数料1%でファクタリングを利用したと仮定します。
この場合、診療報酬債権ファクタリング契約後に手元に入る金額は「1,000万円-200万円-10万円=790万円」です。
その後、無事にファクタリング会社が診療報酬を回収できると、掛け目により差し引かれていた200万円が医療機関へ支払われます。
後から戻ってくるとはいえ、掛け目に気をつけなければ必要なタイミングに必要な額の調達ができない可能性があるのです。
診療報酬債権ファクタリングを利用する際には、希望額が調達できる掛け目設定かどうかを必ず確認しましょう。
依存しないような資金計画が必要
ファクタリングを利用した時点では資金繰りも改善されますが、長い目で見たときに根本的な問題は解決されていません。
本来なら2~3ヶ月後に手元に入るはずだった収入がなくなるため、またファクタリングに頼らざるを得ない状況になる可能性が高くなります。
これは通常のファクタリングにもいえることですが、ファクタリングとはいわば債権の前借りのようなサービスです。
一度利用すると、元のキャッシュフローに戻すのは非常に大変です。
診療報酬債権ファクタリングは、一時的な資金繰りの悪化などやむを得ないときに非常に有効な手段ですが、依存しないように計画的に利用していかなければなりません。
診療報酬債権ファクタリング会社の選ぶポイント
診療報酬債権ファクタリング会社を選ぶ際には、以下のポイントに気をつけて選びましょう。
- 入金までのスピード
- 掛け目
- 契約期間
自院の希望を満たすファクタリング会社を選ぶことが重要です。詳しく解説していきます。
入金までのスピード
診療報酬債権ファクタリングは、債権譲渡契約を交わしてから入金までの期間がファクタリング会社によって異なります。
各ファクタリング会社によって約2~20日と幅があるため、自院が資金を必要とするタイミングまで入金が間に合うかどうかをしっかり確認しなければなりません。
診療報酬債権ファクタリングを利用するメリットは、請求した診療報酬が本来の入金日よりも早い段階で資金化できることです。
万が一にでも希望するタイミングに間に合わないようでは、利用する意味がありません。
掛け目
ファクタリング会社が設定する掛け目が、希望する受取金額を満たしているかを確認しましょう。
ファクタリング会社によって設定されている掛け目はさまざまで、診療報酬債権額の100%に設定している会社もあれば、70%程に設定している会社もあります。
掛け目は、ファクタリング会社が無事に診療報酬を回収できれば医療機関に支払われますが、それでは必要なタイミングに必要な金額が得られない場合もあります。
自院が必要としている金額を完全にカバーできている掛け目かどうかを必ず確認しましょう。
契約期間・更新料・違約金
診療報酬債権ファクタリングの契約期間も会社によってさまざまです。
多くのファクタリング会社は1年で設定していますが、3ヶ月や3年といった契約期間もあります。
自院が短期の利用を想定しているか、長期の利用を想定しているかで選択も変わっていくでしょう。
また、契約の更新料や、途中解約による違約金の有無も重要なポイントです。
更新料も違約金も無料なファクタリング会社が理想ではありますが、残念ながらそう多くはありません。
自院の資金計画をしっかりと確認して、適切な契約期間を設定しているファクタリング会社を選びましょう。
診療報酬債権ファクタリングで資金繰りを改善
診療報酬の請求から受け取りまでに約3ヶ月かかることから、入金までの間に資金繰りが厳しくなるケースは少なくありません。
特に開業して間もない医療機関にとっては、最初の約3ヶ月間は診療報酬の入金がないため、窓口収入含めた手元資金のみで経営しなければなりません。
一時的に資金繰りが厳しいときは、診療報酬債権ファクタリングを利用することで未入金の診療報酬を早期に現金化ができるため、資金繰りが解決できます。
資金調達方法の選択肢のひとつとして、診療報酬債権ファクタリングへの理解を深めておきましょう。