売掛債権は事業者間の多くの取引で発生するため、その意味を正しく理解することが大切です。また、現金取引と違い未払いリスクがあるため、未払いの対処法を知っておく必要があります。
この記事では、売掛債権とは何かについて、その意味や種類、メリット・デメリットを始め、未払いの発生防止方法や回収方法などを解説します。
売掛債権とは
売掛債権とは、掛取引で取引先に商品やサービスを納品した時に、後日代金を受け取る権利のことです。「売上債権」「営業債権」と呼ばれることもあります。
事業者間の取引では、商品やサービスを納品した時にその場で支払いをするのではなく、後日まとめて支払う「掛取引」が主流です。例えば、1月に納品した商品・サービスの代金を、2月末にまとめて支払うといった取引を行います。
この場合、2月1日から2月27日までの間は、商品・サービスを納品し請求書を発行したが、代金はまだ受け取っていない状態です。この時、1月分の取引の売掛債権を持っている状態ということになります。
売掛債権の種類
売掛債権は「売掛金」が一般的ですが、「受取手形」「電子記録債権」といった種類もあるので、違いを理解しておくことが大切です。ここでは、これらの売掛債権の種類について解説します。
売掛金
売掛債権のうち、受取手形や電子記録債権を使用せず、当事者間で請求書を発行するものを「売掛金」といいます。
売掛金は、当事者同士で作成した書面のみをもとに取引するため、お互いの信用が重要になります。
なお、掛取引で商品やサービスを仕入れて、後日代金を支払う義務を「買掛金」といいます。つまり、自分が売掛金を持っているということは、取引先には買掛金が存在することを意味します。
また、不動産や株の売却など、営業活動以外の取引で発生した未回収の金銭は、「未収入金」と呼んで売掛金とは区別します。
受取手形
売掛債権の発生にともなって約束手形を受け取った場合、その手形を受取手形と呼びます。後日代金を受け取る点は売掛金と同じで、手形が発行されたかどうかが相違点です。
約束手形とは金融機関から購入できる紙の証券で、そこに支払期日や金額などを記入して取引先に渡します。そして、支払期日が来た後に手形を金融機関に持っていけば、手形に書いてある金額を金融機関から受け取ることができます。
現在は受取手形で掛取引をするケースは少なく、2026年度末に廃止される予定です。
電子記録債権
電子記録債権とは、紙を使わず電子的に登録された債権のことです。
売掛金は請求書の発行、受取手形は約束手形の発行(振出し)によって売掛債権が発生するのに対して、電子記録債権は国の指定を受けた「電子債権記録機関」に債権を登録することで売掛債権が発生します。
電子債権記録機関は2024年時点で5社存在し、「株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさい)」が代表的です。
電子記録債権は、売掛金や受取手形の問題点の多くが改善されており、売掛債権の新しい決済手段として今後普及していくと考えられます。
売掛債権のメリット
事業者間の多くの取引で売掛債権が利用されるのは、現金取引に比べてメリットが多いからです。売掛債権を利用する主なメリットは以下の3つになります。
- 請求・回収のコストや手間を削減できる
- 取引時点で現金が足りなくても取引できる
- 販売機会を拡大できる
請求・回収のコストや手間を削減できる
売掛債権を使った掛取引は、現金取引に比べて請求・回収のコストや手間を削減できます。
例えば、月に何度も納品する取引の場合、現金取引だと納品のたびに支払いしなければならず、手続きが煩雑になります。一方、売掛債権で一か月分まとめて支払えば、請求・回収業務が月一回で済みます。
取引時点で現金が足りなくても取引できる
売掛債権で後払いにすれば、仕入れの時点で現金が足りなくても取引可能です。
現金が足りない時でも仕入れできれば在庫が安定するのに加えて、突発的に発生した仕入れにも現金を用意せず対応できます。
また、売掛債権で後払いすることにより、浮いた現金を他の用途に使えるのもメリットです。浮いた現金を他の支払いや設備投資などに使うことで、資金をより有効に使うことができます。
販売機会を拡大できる
売掛債権を使った掛取引は現金取引より柔軟な条件設定が可能なので、現金取引だけの場合より販売機会の拡大が期待できます。
売掛債権は、支払期日までの日数(支払いサイト)や、締日をいつにするかなどの条件を、当事者同士が合意すれば自由に設定可能です。
そのため、取引先に都合の良い条件を提示するなどによって、より多くの取引を行える可能性があります。
売掛債権のデメリット
売掛債権による決済のデメリットとしては、以下のようなものがあります。これらのデメリットを理解したうえで、売掛債権を活用することが大切です。
- キャッシュフローが悪化する場合がある
- 未回収リスクがある
- 時効が来ると回収できなくなる
キャッシュフローが悪化する場合がある
売掛債権は後払いで代金を受け取る権利なので、その間は売上はあるのに現金は入手していない状態になります。売掛債権は、すぐに現金が入手できる現金取引に比べて、お金の流れ(キャッシュフロー)が悪化しやすいのが注意点です。
キャッシュフローが悪化すると、売上はあるのに現金が足りず、必要な支払いができなくなる「資金ショート」が起こる可能性があります。資金ショートは倒産につながるケースもあるため、絶対に避けるべき事態です。
資金ショートは、売掛債権の締日から支払期日までの期間(支払いサイト)が長いほど起こりやすくなります。支払いサイトが長いと、その分現金化できない期間が長くなるためです。
よって、支払いサイトをできるだけ短くすることが、資金ショートの防止に有効となります。逆に、こちらが売掛金などを支払う側の場合は、支払いサイトをできるだけ長くするのが有効です。
未回収リスクがある
資金繰りが苦しいなどの理由で取引先に支払能力がない場合、売掛債権を持っていても代金を回収できません。
売掛債権は取引の当事者同士の信用で成立するものなので、回収できない場合は売掛債権を持っている者(債権者)の損失となります。
よって、掛取引を行う際は、取引先の支払能力を評価し、後払いにしても大丈夫か判断しなければなりません。
取引先の支払能力を調べる作業は、「与信調査」または「信用調査」といいます。与信調査は、自社が保有しているデータやネット情報などを使って自身で行うこともできますし、本格的に調査したい場合は専門の信用調査会社に依頼する方法もあります。
時効が来ると回収できなくなる
売掛債権には時効があるため、未払いの債権を長期間放置すると、金銭を受け取る権利が消滅する可能性があります。
売掛債権の時効は原則として5年です。ただし、督促や法的手段による請求などを行った場合や、債権者が債権の存在を知らなかった場合などでは、5年以上になるケースもあります。
よって、長期間放置している売掛債権がある場合は、回収業務を行う前に、時効が来ていないか確認することが重要になります。時効の正確な判断は自身だけで行うのは難しいこともあるため、弁護士などの専門家に依頼したほうがよいでしょう。
もし、保有している売掛債権の時効が目前に迫っている場合は、時効の引き延ばし(完成猶予)ができる手段を行使するのが有用です。
例えば、内容証明郵便を送付する、裁判所から督促状を送ってもらう(支払督促)といった手段によって、時効を引き延ばすことができます。
未払いの売掛債権の回収手段
前章で見たように、売掛債権には未払いリスクがあり、それを完全に排除するのは困難です。よって、未払いが起こった時の回収手段について、理解しておくことが重要になります。
未払いの売掛債権を回収するための、主な手段は以下のとおりです。これらの中から、取引先の状況や支払い意思の有無などによって、適切な手段を選ぶことになります。
- 売掛先に連絡を取って催促する
- 督促状・催告書を送付する
- 債権譲渡で弁済してもらう
- お互いの債務を相殺する
- 代物弁済を行う
- 商品の引き上げを行う
- 法的手段で回収する
売掛先に連絡を取って催促する
未払いの売掛債権の回収は、まず手軽に実行できてあまり強い姿勢でない手段から始めて、それでも支払いの意思がみられない場合は、徐々に強い手段に切り替えていくのがセオリーです。
この考え方でいくと、売掛先に連絡を取って催促するのは、状況に関わらずまず最初にとるべき手段だといえます。
連絡の手段は電話やメールなどでよいですが、売掛先に出向いた際に直接報告したり、書面を送付するなどでも問題ありません。
売掛債権の未払いは、売掛先の資金繰りが苦しいケースも多いですが、単なる業務ミスで振込みができていないケースや、請求書の紛失などで売掛債権の存在を見落としているだけの場合もあります。
よって、売掛先に連絡する際は、まず売掛金が未払いである旨を報告し、未払いを把握しているか確認するにとどめるのがよいでしょう。最初からあまり強い態度で催促してしまうと、もし単なる業務ミスだった場合に、相手の心象を悪くする可能性があります。
また、連絡を取る前段階として、こちら側がミスをしていないか確認することも大切です。こちらが支払期日を勘違いしていないか、契約書の支払期日や振込口座に記載ミスがないかなどを、連絡する前に確認しておきましょう。
督促状・催告書を送付する
連絡を取って確認した結果、業務ミスではなく支払いが遅れていることが分かった場合は、次の手段として「督促状」や「催告書」を送付するのがよくある手段の一つです。
督促状と催告書はともに支払いを要求する書面で、両者に厳密な区別はありません。しかし一般的には、催告書のほうが督促状より強い態度で支払いを要求する意味合いで使い分けることが多いです。
督促状や催告書の送り方に決まったルールはないため、相手の出方を見て送付する回数や間隔などを判断していくことになります。
一例としては、まず督促状を何度か送って支払いをうながし、それでも支払いされない場合は、催告書を送って法的手段に移行する予定である旨を通知する、といった流れが考えられます。
督促状や催告書の送付は、内容証明郵便で行うのが一般的です。内容証明郵便で送付すれば、後々訴訟になった時に証拠として使うことができます。
債権譲渡で弁済してもらう
債権譲渡とは、自分が持っている債権を他者に譲渡することです。民法で、債権は原則として譲渡してもよいと定められています。
よって、もし売掛先が別な取引先に対する売掛債権を持っているなら、それを譲渡してもらって現金による弁済に代えることも可能です。
債権譲渡で弁済してもらった場合は、譲り受けた売掛債権の回収は自分で行わなければならないのが注意点です。売掛債権を譲り受けても、それを回収できなければ現金は入手できません。
よって、債権譲渡による弁済では、譲り受ける売掛債権の未回収リスクの評価が重要になります。
また、他者の売掛債権を譲り受けた場合、その売掛債権の債務者に対して、債権者が自分に移ったことを通知する手続きが必要です(対抗要件の具備)。
お互いの債務を相殺する
民法により、一定の条件を満たす場合は、お互いが持っている債務を相殺することで、現金による弁済に代えてもよいと定められています。
よって、売掛先が自社を債務者とする別の売掛債権を持っている場合は、両者を相殺して弁済することが可能です。
代物弁済を行う
代物弁済とは、現金で債務を弁済する代わりに、他の資産を譲渡して弁済に代えることです。もし売掛先が譲渡可能な不動産や在庫などを持っている場合は、それらを譲り受けることで、現金による弁済に代えることができます。
代物弁済は、譲渡した資産の価値が弁済すべき債務の額より低い場合でも、それをもって債務を全額弁済したとみなされるのが注意点です。
例えば、100万円の債務に対して60万円分の在庫で代物弁済した場合、それをもって100万円の債務が消滅し、差額の40万円の弁済義務はなくなります。
よって、もし差額分も回収したい場合は、代物弁済の契約書に、差額分の債務は消滅しない特約を記載しておく必要があります。
商品の引き上げを行う
商品の引き上げとは、売掛先が代金を支払えない場合に、納品した商品を返品してもらうことです。商品を引き上げると売上を上げることはできなくなりますが、未払いの損失は回避できます。
商品の引き上げは、必ず売掛先の許可を得て行わなければなりません。無許可で勝手に商品を回収した場合、たとえ代金が未払いでも、窃盗罪などの犯罪に該当する可能性があります。
商品の引き上げは当事者同士が合意すれば実行可能ですが、引き上げのために契約解除できる条項を契約書にあらかじめ記載しておくと、トラブルなく手続きを進めることができます。
法的手段で回収する
あらゆる手段を尽くしても回収できず、それでも貸倒損失として計上せず回収を目指したい場合は、法的手段による回収を試みることになります。
法的手段は訴訟(通常訴訟)がよく知られていますが、それ以外にもいくつかの方法があるため、債権の額や回収の見込みなどに応じて、適した手段を選ぶことが大切です。
債権回収で利用される主な法的手段は以下のとおりです。
- 支払督促
- 民事調停
- 少額訴訟
- 通常訴訟
支払督促
支払督促とは、裁判所から売掛先へ、支払いを督促する書面を送付してもらう手続きです。普通の督促と違い、売掛先が異議申し立てをしなかった場合は差押えの手続きができます。
支払督促は他の法的手段に比べて低コストで利用できるため、最初に検討すべき手段だといえます。
民事調停
民事調停とは、裁判官や調停委員の立会いのもとで売掛先と話し合い、弁済の仕方について合意を目指す手続きです。合意した内容は判決と同じ法的効力を持つため、もし売掛先がそれを実行しない場合は差押えなども可能になります。
民事調停は訴訟に比べると低コストで利用できるのが利点ですが、合意が得られる見込みがないと徒労に終わる可能性もあります。
少額訴訟
少額訴訟とは、請求額が60万円以下の場合に利用できる、簡便な手続きの訴訟です。通常訴訟より低コスト、短期間で実行できる傾向があります。
通常訴訟
請求額が60万円を超える場合は少額訴訟を利用できないため、通常訴訟を行うことになります。
通常訴訟はコストと手間がかかりますが、証拠を揃えて言い分をきちんと主張したうえで判決を得られるのがメリットです。
売掛債権の未回収を防ぐ方法
未払いになった売掛債権を回収することも大切ですが、そもそも未回収が起こらないように予防することも重要です。
売掛債権の未回収を防ぐ主な方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 売掛先の与信管理を徹底する
- 請求・管理業務のミスを減らす
- 請求代行サービスを利用する
- 売掛保証を利用する
- 担保を取る
売掛先の与信管理を徹底する
与信管理とは、売掛先の未払いリスクを評価して、取引内容をリスクに合ったものに調整することです。与信管理を徹底することで、未払いによる損失のリスクを減らすことができます。
未払いリスクの評価のためには、取引先の財務状況を把握することが重要です。取引先の決算書などのデータ、および聞き取りなどから得た情報をもとに、総合的に判断していきます。
調査は自社で行ってもよいですが、帝国データバンクなどの調査会社に依頼するのも有用です。
そして、未払いリスクを評価したら、リスクに合わせた取引額と支払いサイトを決定します。また、長期の継続取引をしている相手に対しては、評価の定期的な見直しを行い、現状に合った取引量と支払いサイトに調整します。
未払いリスクの高い取引先に対しては、取引量を減らす、支払いサイトを短縮する、取引を中止するなどの対応を取ります。逆に、未払いリスクが低い取引先に対しては、取引量を増やすことも可能です。
請求・管理業務のミスを減らす
売掛債権の未回収は売掛先の資金繰り悪化で起こることが多いですが、こちら側の請求・管理業務のミスで起こるケースも少なくありません。よって、未回収の防止策として、請求・管理業務のミスを減らすことは大変重要です。
請求・管理業務のミスを減らす主な方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 手作業の業務のヒューマンエラー対策
- 売掛債権に関する補助簿の作成
- 経理・会計システムの導入
- 他部署との連携の強化
手作業の業務のヒューマンエラー対策
紙の書類やエクセルを使った手作業では、記入間違いなどのヒューマンエラーが避けられません。もし売掛金の記入漏れなどがあった場合、それによって売掛金の未回収が発生する恐れがあります。
よって、売掛債権の未回収の防止において、手作業の業務のヒューマンエラー対策は大変重要です。
主な対策法としては、以下のようなものが考えられます。これらの対策を徹底して、ヒューマンエラーをできるだけ減らすようにしましょう。
- ダブルチェックを徹底する
- 業務のマニュアル化によって属人性を排除する
- 紙の書類は常に整理整頓を心がける
- 納期に追われないスケジュール管理
売掛債権に関する補助簿の作成
売掛債権の請求・管理業務のミスを減らす方法の一つとして、売掛債権を把握するための補助簿の活用があります。作成が義務付けられている総勘定元帳などの主要簿に加えて、適切な補助簿を作成するのは有用です。
売掛債権に関連する補助簿としては、「売掛金元帳(得意先元帳)」や「売掛金回収予定表」があります。
売掛金元帳とは、売掛金の発生や回収の状況について、取引先ごとにまとめた帳簿です。そして売掛金回収予定表とは、取引先ごとに売掛金の回収予定日や回収予定額などを記載した帳簿となります。
経理・会計システムの導入
経理業務や会計業務を自動化できる経理システム・会計システムの導入は、請求・管理業務のミスを減らす手段として有用です。業務を自動化すると、必然的に手作業のヒューマンエラーは減少します。
経理システムは、経費の精算や請求書・売掛債権の管理などを自動で行えます。そして会計システムは、仕分けや帳簿作成、経費や債務の管理など、会計に関する業務を自動で行うことができます。
経理・会計システムは大変有用ですが、コストがかかる点と、使い慣れるまではかえって不便に感じる場合もあることなどが注意点です。
他部署との連携の強化
請求・管理業務のミスを減らすためには、他部署との連携を強化することも重要です。他部署との情報共有がうまくできていないと、売掛金の請求漏れや重複請求などのミスが起こりやすくなります。
特に、営業部門は売掛債権に関する業務と深く関連することが多いため、しっかり連携を取ることが大切です。
他部署にとって経理は付随的な業務のため、手続きが遅れたり、間違った方法で行われてしまうことも少なくありません。
よって、他部署が利用しやすい業務フローや、ある程度のヒューマンエラーを想定したフォロー体制の構築などが、連携強化のために重要となります。
また、営業部門が営業管理システムを使っている場合は、それと経理・会計システムを同期しておくと情報共有を自動化できます。
他にも、経理関連の社内問合せにチャットボットを使うなど、IT化による連携強化は有用です。
請求代行サービスを利用する
請求代行サービスとは、売掛金の請求とその周辺業務を、代行会社が代行してくれるサービスです。請求書の発行や送付、入金確認や消込作業などを代行でき、中には与信調査や未払いの売掛金の督促を代行できるものもあります。
請求代行サービスを利用すると、手作業によるミスを防ぐことができ、請求忘れなどによる売掛債権の未回収を減らすことが可能です。
さらに、与信調査や督促も代行すれば、売掛先の資金繰り悪化による未回収も減少します。
売掛保証を利用する
売掛保証とは、売掛債権が未回収になった時に、保証会社が代金を支払うサービスです。売掛保証を利用すれば、未回収になっても損失を負わずに済みます。
また、売掛保証では、利用に際して保証会社が売掛先の与信調査を行うため、自社で与信調査を行うコストを節約できるメリットもあります。
一方、売掛保証の利用には手数料がかかる点と、売掛先の信用が低すぎると利用できないことなどが注意点です。
一般的に、少数の大口取引先に依存している会社は、売掛保証を利用するメリットが大きい傾向があります。
担保を取る
売掛先の合意のうえで、掛取引の際に担保を取ることも可能です。担保を取っておけば、売掛債権が未払いになっても担保で回収できます。
担保に取ることができる主な資産は以下のとおりです。この中から、価値が十分あり、かつ売掛先から合意してもらえる資産を選んで担保をとります。
- 不動産
- 設備・在庫・備品などの動産
- 預金
- 売掛先が保有している他の売掛債権
- 株式等の有価証券
- 特許や著作権などの知的財産
- 保証人
売掛債権を利用した資金調達方法
売掛債権は資産の一種であるため、これを利用した資金調達も可能となります。融資以外の資金調達方法をより多く知っておくことは、資金繰りや資金計画に有用です。
売掛債権を利用した主な資金調達方法は、「売掛債権担保融資」と「ファクタリング」です。ここではこれら2つの資金調達方法について、概要を解説します。
売掛債権担保融資
売掛債権担保融資とは、売掛債権を担保にした融資のことです。融資では不動産を担保に取ることが多いですが、代わりに売掛債権を担保に融資を行います。
売掛債権以外に在庫などを担保にする融資もあり、これらをまとめて「動産担保融資」「流動資産担保融資」または「アセット・ベースト・レンディング(ABL)」と呼びます。
中小企業やスタートアップ企業は、担保にできるような不動産を持っていないことも多いです。しかし、売掛債権はたいていの企業が持っているため、担保として利用しやすい面もあります。
また、売掛債権の支払期日前に資金調達できるため、資金ショート回避を始めとするキャッシュフロー改善に役立ちます。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング業者などに売却して、売却代金を受け取るサービスです。支払期日前に売掛債権を現金化でき、融資ではないため返済する必要もありません。
ただし、売掛債権を売却してしまうため、支払期日が来ても売掛金を受け取ることはできないのが注意点です。売掛金は、売掛債権を買い取ったファクタリング業者が受け取ります。
ファクタリングは利用者の信用よりも、売掛債権の信用が審査で重視されるのも特徴の一つです。そのため、信用が低く融資の審査に通りづらい会社でも、ファクタリングなら審査に通ることがあります。
売掛債権を売却するため、売掛金の未回収リスクがなくなるのもファクタリングのメリットです。未払いになってもその損失は売掛債権を買い取ったファクタリング会社が負い、返金を求められることはありません。
売掛債権から算出できる経営指標
保有している売掛債権の額面などの数値を使って、経営状態を把握するための経営指標をいくつか算出できます。売掛債権から算出できる経営指標を活用して、経営状態を正しく把握しましょう。
売掛債権から算出できる主な経営指標は、「売上債権回転率」と「売上債権回転期間」です。以下でこれら2つの指標について解説します。
売上債権回転率
売上債権回転率は、以下の式で算出される指標です。
- 売上債権回転率=売上高÷保有している売上債権の額
計算の際は、損益計算書に記載の一事業年度の売上高と、貸借対照表に記載の決算時の売上債権の額を用いることが多いです。
計算例
例えば、1年間の売上高が1億2,000万円で、決算時の売上債権の額が2,000万円の場合、売上債権回転率は
- 1億2,000万円÷2,000万円=6回
となります。なお、売上債権回転率の単位は、「回」「回転」などと呼ぶことが多いです。
これは、2,000万円の売上債権の発生と回収のサイクルが、1年間に6回行われるのに相当する回転数であることを意味します。
もし売上債権の額が1,000万円の場合は、同様に計算すると
- 1億2,000万円÷1,000万円=12回
となります。こちらのほうが回転率が高く、売上債権が2,000万円の場合と比べて発生・回収のサイクルが早いと解釈できます。
回転率は原則として高いほうがよいとされる
売上債権回転率は、原則として高いほうがよいとされます。これは、回転率が低いのは売上債権の回収に時間がかかっていることを意味しており、キャッシュフローに問題がある可能性を示唆しているからです。
ただし、回転率があまり高すぎるのも、適切でない取引を示唆している場合もあります。
例えば、掛取引すべき場面で現金取引にしてしまっているケースや、短すぎる支払いサイトで取引先に負担をかけているといったケースでは、回転率が高くなりすぎる可能性があります。
業種によって回転率の平均が違う
売上債権回転率は業種によって平均値が大きく違うため、同業種との比較で判断する必要があります。
一般的に、サービス業などの現金取引が多い業種は、回転率が高めに算出されます(おおむね30回から50回程度)。一方、長期の掛取引が多い建設業や製造業などは、回転率が低い傾向があります(おおむね5回から10回程度)。
売上債権回転期間
売上債権回転期間とは、以下の式で表される指標です。
- 売上債権回転期間=売上債権÷1日あたりまたは1月あたりの売上高
1日あたりまたは1月あたりの売上高は、年間の売上高を365または12で割ると求められます。そして、売上債権の額は、決算時の額または期首と期末の平均値を使うことが多いです。
計算例
例えば、売上債権の額が2,000万円で年間の売上高が3億6,500万円の場合、1日あたりの売上高は
- 3億6,500万円÷365日=100(万円/日)
となります。よって売上債権回転期間は
- 2,000万円÷100(万円/日)=20日
となります。同様に、1月あたりの売上高は
- 3億6,500万円÷12月=約3,042(万円/月)
なので、売掛債権回転期間は
- 2,000万円÷3,042(万円/月)=約0.66月
となります。
これは、2,000万円の売上債権が回収される早さが、20日または約0.66月に相当することを意味します。
同様に、売上債権の額が1,000万円の場合、売上債権回転期間は
- 1,000万円÷100(万円/日)=10日
- 1,000万円÷3,042(万円/月)=約0.33月
となります。
売上債権が2,000万円の場合と比べて期間が短いため、発生・回収のサイクルがより早いと解釈できます。
売上債権回転率の時と同様、売上債権回転期間は原則として短いほうが、キャッシュフローが健全であるとみなされます。また、業種によって回転期間が大きく異なる点も、回転率の時と同様です。
まとめ
売掛債権とは掛取引の代金を受け取る権利のことで、具体的には売掛金や受取手形、電子記録債権などが該当します。
売掛債権は、現金取引に比べて手間がかからないなどのメリットがありますが、未払いリスクなどのデメリットがあるのが注意点です。
売掛債権のメリット・デメリットや未払いの防止方法および回収方法などを理解して、売掛債権を有効活用しましょう。