事業を開業する際にはある程度のまとまった資金が必要です。
しかし、誰もが開業時に必要な資金を自己資金で用意しているわけではなく、多くの人は融資を利用して開業資金を調達しています。
開業の際に必要な資金の融資を「開業資金」とか「創業資金」といいます。
個人事業主が開業資金の融資を受けるには一定の条件をクリアしている必要がありますし、融資を受ける方法や借入先も通常の事業資金融資とは異なります。
また、そもそも審査基準が異なるため、ポイントを押さえた上で申し込みをしなければなりません。
個人事業主が開業資金融資を借りる方法や、申込先、審査基準について解説していきます。
これから開業する方や、開業して間もない個人事業主の方は、必要資金の調達方法を理解できるため、ぜひご覧ください。
個人事業主が事業資金融資を受ける条件
まずは個人事業主が事業資金の融資を受けるための条件を確認しておきましょう。
以下の3つの条件を満たしていないと、そもそも申し込むこともできないので注意してください。
- 開業前は事業計画書があること
- 開業後は開業届を出していること
- 開業から最初の3月を経過している場合は確定申告をしていること
個人事業主が開業資金をはじめとした事業資金融資を受けるための3つの条件を解説していきます。
開業前は事業計画書があること
開業前に開業資金として事業資金融資を受けたい場合には、事業計画書を作成して銀行へ提出できる状態でないと融資を受けられません。
開業前の人に対しては、事業計画から「事業計画に実現性がありそうか」「返済には問題なさそうか」などという点を評価して審査するためです。
開業前の人は、法的には一般の個人です。
そのため、本来であれば、個人向けの融資しか受けられません。
しかし、事業計画があることによって「開業を予定している見込みの事業者」という扱いになり、事業資金の審査を受けられます。
開業を予定し個人事業主になる予定の個人の方は、どのような事業を実施したいのかを詳細に記載した事業計画書を作成して銀行へ持参するようにしてください。
なお、商工会議所や金融機関が開催している創業セミナーなどでも事業計画書や創業計画書の作成方法を教えてもらうことができます。
開業後は開業届を出していること
開業後の個人事業主は開業届を提出していることが事業資金融資を受ける条件です。
開業届とは個人事業主として事業を始める際に税務署へ提出する書類で、この書類を提出することによって「所得税の青色申告承認申請書」が提出可能になります。
簡単に言えば、税務署が管轄の地域で事業者を捕捉するための書類です。
この書類を提出することによって、公的に「事業を営んでいます」という証明になります。
個人事業主は法人のように登記がないので、公的に「事業を営んでいます」という証明ができません。
そこで開業届を銀行へ提出することによって「確かに事業を営んでいる」と銀行が判断できます。
開業届は原則として事業開始から3ヶ月以内に所轄の税務署へ提出しなければなりませんが、3ヶ月過ぎても提出できますので、まだ提出していない方は早めに提出してください。
また、開業届を提出すると、税務署から控えを受け取れ、この控えが金融機関へ提出する書類になるので無くさないよう、大切に保管してください。
前年開業した場合は確定申告をしていること
前年に開業し、融資の申込時期が確定申告の申告期限をすぎている場合、前年の確定申告をおこなっていることが条件になります。
個人事業主として事業を営んでいるのであれば、確定申告をおこなわなければなりません。
例年3月15日までは確定申告の期限です。そのため、仮に前年12月に開業したとしても1ヶ月分の確定申告は翌年3月15日までにおこなう必要があります。
確定申告を行う義務がある事業者であるにも関わらず、確定申告をしていない個人事業主に対しては金融機関が融資をおこなうことはありません。
前年から事業を営んでおり、申込時期が確定申告期限を過ぎている場合には、必ず確定申告をおこなってから事業を営むようにしてください。
個人事業主が開業資金融資を受けるタイミング
個人事業主が開業資金融資を受けるタイミングは開業前と開業後です。
それぞれ、審査の着眼点や融資を受けられる条件が異なるため、詳しく解説していきます。
開業前が最も多い
開業資金の融資を受ける人が最も多いのは開業前です。
開業をする前には、店舗や事務所などにさまざまな備品や設備が必要です。
これらの資金を自己資金で全額用意している人は少なく、多くの人が開業資金融資を利用しています。
また、一般的に開業から半年〜1年程度は事業経営が軌道に乗らないものです。
そのため半年から1年程度の運転資金はあらかじめ手元に保有していなければ事業経営が難しくなるので、開業前にまとまった長期運転資金を借りる人も多いようです。
このように、開業時にはまとまった金額が必要になるので、開業資金融資を開業前に受ける人が多くなっています。
開業1年以内は開業資金融資を受けられる
開業後でも開業から1年以内であれば開業資金融資は受けられます。
開業後であっても、「やはり不足していた設備があった」というケースはあります。
また、開業前には最初から事業がうまくいくと考えるものの、実際に開業した後に想定通りに行かず、「やはりお金が足りなかった」というケースも少なくありません。
このような場合、開業後に運転資金を借りることも可能です。
開業資金や創業資金というと、開業前に融資を受けるものと考える方も多いですが、一般的に開業後であっても1年以内であれば融資を受けられます。
なお、開業前に開業資金融資を受けた方が、開業後にも開業資金を借りることはできません。
開業資金融資が利用できるのは1回のみと理解しておきましょう。
個人事業主が開業資金を借りる方法
個人事業主が開業資金を借りる方法や調達する方法は以下の7つです。
- 日本政策金融公庫の新創業融資制度
- 自治体の制度融資
- 銀行や信用金庫の融資
- 補助金
- クラウドファンディングを利用する
- ビジネスカードでキャッシング
- ファクタリング
それぞれ、調達条件などが異なるので、資金調達方法の違いや特徴を理解しておきましょう。
日本政策金融公庫の新創業融資制度
日本政策金融公庫には創業資金を有利な条件で融資する新創業融資制度という制度があります。
利用対象者 | ・新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方 ・新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方 |
---|---|
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
金利 | 1.0%〜3.5% |
返済期間 | 各融資制度に定める返済期間以内 |
担保・保証人 | 原則不要 |
新創業融資制度は「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方」という条件を満たすことで、開業資金を融資な条件で利用できる制度です。
なお、自己資金の条件は「お勤めの経験がある企業と同じ業種の事業を始める方」、「創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業)を受けて事業を始める方」などに該当する場合には撤廃されます。
勤務していた企業と同じ業種の起業をする方は自己資金なしでも新創業融資制度を受けられます。
総額3,000万円(運転資金は1,500万円)までであれば、新創業融資制度を利用することによって、低金利で借りられます。
なお、新創業融資制度に該当しない方や新創業融資制度の融資枠では必要資金が足りない方は、金利等が少し高くなる以下の新規開業資金の融資を受けられます
利用対象者 | ・新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方 |
---|---|
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
金利 | 基準金利 |
返済期間 | 設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内) |
担保・保証人 | 原則不要 |
新規開業資金は事業開始7年以内の方も借りられるのが特徴です。
新創業融資制度よりも融資限度額がかなり大きいので、新創業融資制度では必要金額が不足している方なども利用できます。
日本政策金融公庫は、あまざまな融資制度で新規開業を支援していますので、開業資金が必要になったときにはまず相談してください。
自治体の制度融資
都道府県や市区町村の制度融資でも創業支援向けの融資制度が用意されています。
制度融資とは、自治体が金融機関に預けている預託金の範囲内で実施する融資で、融資するのは金融機関で信用保証協会の保証がつきます。
金融機関にとってはリスクが非常に低いため、低金利で借りることができ、金利などの商品内容は自治体があらかじめ決めているので、どのような企業でも同じ金利で融資を受けられる商品です。
そのため、多くの金融機関は取引歴の浅い企業に対して融資をおこなう場合には、制度融資を利用するのが一般的です。
制度融資は開業資金の他、売上減少時に利用する資金などさまざまです。
資金の内容や種類は自治体によって異なりますが、ほとんどの自治体が開業資金を用意しています。
たとえば、東京都の開業資金融資である「創業」の内容は以下のとおりです。
利用対象者 | 都内に事業所(個人事業者は事業所又は住所)があり、東京信用保証協会の保証対象業種を営む中小企業者で以下3点のいずれかに該当する方
・現在事業を営んでいない個人で、創業しようとする具体的な計画を有している |
---|---|
融資限度額 | 3500万円 |
金利 | 【固定金利】 (融資期間により異なる。融資時の金利が完済まで適用される。) 融資期間 3 年以内 1.9%以内 3 年超 5 年以内 2.1%以内 5 年超 7 年以内 2.3%以内 7 年超 2.5%以内 【変動金利】 「短プラ+0.7%」以内 ※区市町村の認定特定創業支援等事業による支援又は商工団体等による創業支援を受け、証明を受けた場合、融資利率を0.4%優遇 |
返済期間 | 設備資金10年以内(据置期間1年以内) 運転資金7年以内(据置期間1年以内) |
担保・保証人 | 原則不要 |
東京都の創業融資の場合には2%前後の低金利で借りることができます。
制度の内容は自治体によって異なるので、詳しくはお住まいの自治体へ確認しましょう。
銀行や信用金庫の融資
銀行や信用金庫などの民間の金融機関の中には、独自に新規開業に必要な資金の融資を用意している場合があります。
例えば広島銀行は「〈ひろぎん〉創業支援ローン」という開業資金に利用できる融資を用意しています。
利用対象者 | 新たに事業を開始予定または事業開始後1年以内の法人および個人事業主で、以下の条件をすべて満たす方 ・広島県、岡山県、山口県、愛媛県内で事業を営まれる方 ・「創業計画書(当行所定様式)」の提出が可能な方 ・事業内容が金融保険業(生保・損保代理店除く)、風俗営業、パチンコ業でない方 |
---|---|
融資限度額 | 1,000万円以内(ただし創業に必要な資金の80%以内まで) |
金利 | 広島銀行所定の金利(変動金利) |
返済期間 | 運転資金:7年以内(据置期間1年以内) 設備資金:10年以内(据置期間1年以内、また法定耐用年数の範囲内まで) 創業に関する公的助成金等のつなぎ資金:1年以内 |
担保・保証人 | 原則不要 |
一般的に民間金融機関独自の開業資金融資は制度融資よりも金利が高くなっているので、できるのであれば制度融資を利用した方がよいでしょう。
しかし銀行独自の開業資金融資は制度融資よりも審査が簡素で柔軟になっていることがあります。
そのため、自治体の制度融資の審査に通過できなかった事業者でも、民間金融機関の開業資金融資であれば借りられる可能性があります。
また、広島銀行の融資制度のように、補助金などのつなぎ資金としても利用できるので、補助金を受け取るための補助対象事業の経費を支払うための資金が手元にない場合には銀行や信用金へ相談するとよいでしょう。
補助金
国や地方自治体は創業者を支援するための補助金を用意しています。
補助金は返済が不要なので、うまく採択されれば創業後の資金繰りは非常に楽になります。
創業に関連する補助金で最も有名なのが、毎年春頃に募集される「地域創造的起業補助金」です。
この補助金は50万~200万円の範囲内で補助率50%で創業に必要な補助を受けられるというものです。
例えば創業に必要な経費が400万円であれば、その半分の200万円の補助を受けられます。
ただし、補助金には審査があり採択された事業者でないと補助を受けることはできません。
人気がある補助金の場合には採択率が10%を切るようなものもあるので、事業計画がしっかりとしたものでないと、受給できない可能性が高いでしょう。
なお、補助金の支払いは後払いが原則です。
そのため、最初に事業に必要な経費は全額自己資金や借入などで用意しなければなりません。
対象の経費の支払いが全額完了した後に、補助金が支給される形になるので注意してください。
クラウドファンディングを利用する
クラウドファンディングでも、開業資金を集められる場合があります。
クラウドファンディングとはインターネット上に案件の内容を公開し、事業に必要な資金を集める資金調達方法です。クラウドファンディングも返済不要なので、うまく資金を集められれば開業後の資金繰りがかなり楽になります。
事業の内容に共感を得られた場合に、投資家は出資してくれるので、単なる営利目的ではなく、公共的・社会的な課題を解決する目的の事業の方が審査に通過しやすい傾向があります。
融資は審査に通過できれば希望した金額をほぼ確実に集められますが、クラウドファンディングは案件を公開しないと、いくら集まるのか分からないという点に注意しましょう。
ビジネスカードでキャッシング
個人事業主や法人経営者向けに発行されるクレジットカードであるビジネスカードにキャッシング枠を作成し、キャッシング枠からお金を引き出すことで必要な資金調達をおこなうこともできます。
キャッシングはATMから簡単にお金を引き出せるので、面倒な審査は必要ありませんし、借りたお金を何に使用しても自由です。
しかし、キャッシングの金利は15%〜18%程度と非常に高く、個人事業主は数十万円程度の借入枠しか与えられません。
また返済も一括が原則なので、クレジットカードの支払日には資金繰りが大変になる可能性があります。
クレジットカードのキャッシングはあくまでも緊急で資金が必要になった時に利用するにとどめ、慢性的に利用することがないようにしてください。
ファクタリング
ファクタリングとは売掛債権を期日前に売却して早期に資金調達する方法です。
売掛債権は商品やサービスを納品してから、相手先からの入金日になるまで資金化できない資産です。
しかしファクタリングを利用することで、期日前に売掛債権の代金を受け取れます。
売却できるのは商取引で生じた売掛債権のみですので、開業後でないと利用できません。
手元に運転資金がない場合には、最初の売上をファクタリングに回すことで、一定期間の運転資金を確保できるでしょう。
個人事業主が開業資金融資を受ける際の注意点
個人事業主が開業資金融資を受ける際には、以下の4点に注意して申込みを行いましょう。
- 自己資金が3割程度あった方が借りやすい
- 開業前の方が融資を受けやすい
- 運転資金は多めに計画しておく
- ビジネスローンは利用できない
自己資金が3割程度あった方が借りやすい
個人事業主が開業資金融資を受ける際には、ある程度の自己資金があった方が審査に通りやすいでしょう。
フルローンでも開業資金融資を受けることは可能ですが、フルローンの場合には毎月の返済額が重くなるので、審査で「返済可能性が疑わしい」と判断されやすくなります。
自己資金は多ければ多いほど審査では有利になりますが、目安としては開業に必要な資金の3割程度、最低でも1割程度を用意するようにしてください。
開業前の方が融資を受けやすい
開業後よりも開業前の方が開業資金融資は受けやすくなります。
開業前であれば事業計画が審査されるので、ある程度希望的観測に基づいた売上計画であっても、その計画がそのまま認められて審査が行われることが少なくありません。
しかし開業後の場合には、実際の売上実績を基準に審査がおこなわれます。
一般的に開業間もないタイミングは当初の計画通りに売上が上がることはありません。
つまり、開業後に融資に申し込む場合は、事業計画よりも少ない売上を基準に審査が行われてしまいます。
事業計画を上回る実績で開業後の実績が推移していない限り、開業資金は開業後よりも開業前の方が審査が有利になります。
運転資金は多めに計画しておく
開業時には「当面の運転資金は〇〇万円」などと、事業が軌道に乗るまでの運転資金を見積もります。
運転資金は自分の想定よりも多めに用意しておいた方がよいでしょう。
開業後は想定外の支出が発生することが多いですし、計画通りに売上が推移する可能性の方が低いのが一般的です。
そのため、自分では「軌道に乗るまで3ヶ月」と計画しているのであれば、その倍の半年分は運転資金を確保しておいた方がよいでしょう。
開業資金融資は原則として1回しか利用できません。
そのため、当初の計画が甘く、再び運転資金が必要になってもすぐに追加融資を受けることは困難です。
開業前の事業計画を立てる際には、自分が考えるよりも運転資金を多めに確保し、計画通りに売上が推移しなくても時間的猶予を持てるようにしておきましょう。
ビジネスローンは利用できない
開業資金の融資ではビジネスローンは利用できません。
ビジネスローンは個人事業主の確定申告書を主に審査します。
開業前や開業間もなくの個人事業主は確定申告書を作成していないため、ビジネスローンの審査が不可能です。
ビジネスローンは最短即日融資で、日本政策金融公庫や銀行よりもかなり審査が緩い傾向になるので、緊急でお金が必要になった時は活用できる資金調達方法です。
しかし、最初の確定申告を終える前の段階では利用できないので注意しましょう。
個人事業主の開業資金融資の審査ポイント
銀行や日本政策金融公庫が個人事業主の開業資金融資を審査するポイントは以下のような点です。
- 事業計画の実現性
- 資金使途
- 自己資金
- 開業前の経営者の経歴
- 必要金額の妥当性
- 経営者の人柄や能力
- 税金滞納の有無
開業資金は通常の運転資金と審査の着眼点が異なります。
どのような点が審査で確認されるのか、詳しく見ていきましょう。
事業計画の実現性
事業計画に実現性があるかどうかは必ずチェックされます。
何も根拠がないのに「月商1,000万円」などと計画書に記載しても、まず銀行は実現性を信じてはくれないでしょう。
なぜ、その計画が実現できるのかをできる限り客観的な根拠を示さなければなりません。
たとえば、ある商品の地域のおける市場規模が1億円で、営業努力によってシェアの10%を取れると考えるから、1億円の1割である1,000万円の売上が見込めるなどの内容です。
また、具体的にどのように営業活動を行うのかなどの計算も重要です。
希望的観測や、絵に描いた餅をただ並べるのではなく、実現可能性のある事業計画を策定するようにしてください。
資金使途
借りた開業資金を何に使用するのかをできる限り詳細に申告してください。
資金使途について、単に「運転資金〇〇ヶ月分」というだけでなく、運転資金の内訳まで細かく記載しましょう。
銀行は必要もないお金は融資しません。
そのため、何にいくらお金を使うのか、開業後は毎月いくらお金が足りなくなるのかをしっかりと確認します。
運転資金を借りる場合には、内訳だけでなく、資金繰り表も添付して1ヶ月ごとの入金と流出と不足する現金を明記して、毎月いくらの現金が足りないということを明確にしましょう。
なお、設備資金を借りる場合、設備資金は詳細な明細なしでは借りられないため、融資金で購入する設備1つ1つの見積書を添付しましょう。
自己資金
開業資金融資では、自己資金がどの程度あるのかもかなり重要になります。
フルローンで開業資金の融資を受ける場合には、毎月の返済額が多くなることから、事業の計画性がかなり緻密で、成功する可能性が高いと判断できる場合以外は審査が厳しくなります。
また、自己資金があるということは、それだけ開業に対して準備をしてきたということですので、経営者としての本気度が金融機関からポジティブに評価されることもあります。
一般的には開業時の自己資金は3割程度は必要と言われています。最低でも1割、できれば3割ほどの自己資金を用意した上で開業資金融資への申し込みをおこなってください。
開業前の経営者の経歴
開業前の経営者の経歴も重要です。
開業する業種と同じ業種に勤務している人の方が審査で有利になります。
すでにノウハウや顧客を持っている可能性が高いですし、開業に至った経緯は独立ですので、開業に至る合理性や必然性が判断できます。
また、開業前と開業後の業種が同じであれば、事業が成功する可能性も高いでしょう。
一方、開業する業種とは無関係な業種に勤務している人は、ノウハウも顧客もいないので実現可能性は低くいと判断されます。そのため開業資金融資の審査で不利になるでしょう。
たとえば、これまで普通の会社員だった人が、突然脱サラしてラーメン屋を始めるようなケースでは審査に落ちることもあります。
できれば、独立前にどこかで修行するなど、開業後と同じ業種の勤務経験があった方がよいでしょう。
必要金額の妥当性
申込金額に妥当性があるかどうか、審査では必ずチェックされます。
例えば「運転資金半年分」という資金使途で申し込みをしている企業の運転資金が1ヶ月100万円の場合、妥当な運転資金は600万円です。
しかし、この企業が「半年分の運転資金」として1,000万円申し込んできた場合には「資金使途に妥当性がない」と判断され、審査に通過できない可能性があります。
資金使途が妥当なものであれば「経営者として計画性があり信用できる」とポジティブに判断されますが、妥当性がない金額の申し込みをおこなうと経営者としての能力を懐疑的に見られる可能性があります。
「なぜ、この金額が必要なのか」ということを客観的に説明できるような、妥当性のある金額の申し込みをおこないましょう。
経営者の人柄や能力
経営者の人柄や能力も審査では重視されます。
特に開業資金融資は何も営業実績がない状態で審査を受けるので、事業計画と同じく「経営者の人柄や、能力があるか」などの数字では評価できない定性的な印象が審査で非常に重視されます。
- 業界の動向や事情に精通している
- 経営計画について詳細に説明できる
- 長期的なビジョンを持っている
- 数字の裏付けをすべて説明できる
- 経営に役立つ人脈を持っている
- 金融機関の担当者と円滑にコミュニケーションが取れる
開業資金融資の審査ではこのような数字からは分からない定性的な部分も評価されています。
上記を意識してしっかりと自分をアピールするとともに、服装や髪型などにも気を使い、清潔感を意識して金融機関へ相談に行ってください。
税金滞納の有無
税金滞納があると、日本政策金融公庫、銀行や信用金庫、制度融資の審査には通過できません。
これらの審査ではほぼ必ず納税証明書の提出が必要になるためです。
個人事業主の場合には、個人名義の全ての税金が該当するため、自動車税、固定資産税など、事業とは関係のない税金でも滞納していると融資を受けることが不可能です。
なお、申し込み時点で滞納していても、審査を受ける際に納税証明書さえ提出できれば問題ありませんし、過去の滞納歴などは審査されません。
とにかく審査や契約時点で滞納している税金さえなければ問題なく融資を受けられるので、必ず税金滞納を解消したうえで申し込みをおこなってください。
開業資金融資に通過するための事業計画書のポイント
個人事業主の開業資金融資の審査で最も重要になるのは事業計画書です。
事業計画書の内容に説得力があれば、融資を受けられる可能性は飛躍的な高まるでしょう。
以下の4つのポイントを押さえて、事業計画書を作成するようにしてください。
- なぜ開業に至ったのかは根拠をつける
- 夢や公共的使命を語る
- 長期的に事業が成長できる計画にする
- 資金調達方法は詳細に記述する
審査で評価される事業計画書を記載するための4つのポイントを詳しく解説していきます。
なぜ開業に至ったのかは根拠をつける
なぜ開業に至ったのかを明確に説明し、開業に合理性を持たせましょう。
開業理由は事業計画書を読んだ審査担当者が「なるほど、このような理由で開業に至ったのか。よく理解できる」と判断できる開業理由である必要があります。
そのため「この事業だったら儲かりそうだから、開業してみたい」程度の曖昧な開業理由は評価されません。
「会社員として10年間、飲食店に勤務していたが、今回経営者に認められて、暖簾分けができるようになった。そのため、長年の夢だった自分の店を持ちたい。現在勤務している飲食店のお客さんも自分の店に行きたいと言っている」などとの開業に至る理由が明確かつ具体性があれば、審査担当者は納得できます。
思いつきや主観で「開業したらうまくいく」と安易な理由を開業理由とするのではなく、客観的な根拠をもって開業理由を事業計画書や創業計画書に記載しましょう。
夢や公共的使命を語る
事業計画書には、経営者としての夢や公共的な使命など「儲かる」というお金以外のビジョンもしっかりと語りましょう。
開業資金融資においては「この経営者を応援したい」と審査担当者に思わせることが非常に重要です。
そのため「この事業をやれば儲かるから」だけでなく、たとえば以下のようなビジョンを語ることが重要です。
- 社会的な課題を事業を通して解決したい
- 困っている人を救いたい
- これまでは高額だったサービスを少ない負担で多くの人に提供したい
- 海外では当たり前の便利なサービスを日本に広げたい
このように、経営者としてどのようなことを実現しないのか、という夢や公共的な使命をしっかりと語るようにしてください。
開業資金融資は、夢やビジョンがあり、さらに数字の裏付けもあるという事業計画が最も評価されます。
長期的に事業が成長できる計画にする
事業計画書には1年先5年先にどのような売上や収益になるのか、という計画を記載しなければなりません。
この欄は長期的に事業が成長できるような内容にしてください。
短期的には「どの程度売上があり、どの程度の収益になるのか」という計画を立てるのは比較的容易です。
しかし、事業は長期間の成長も非常に重要です。
ここはある程度は希望的観測でもよいので、長期的に事業が成長できるような事業計画を策定してください。
長期的に事業が一定のペースで大きくなっていく事業計画が理想です。
資金調達方法は詳細に記述する
事業計画書には「開業に必要な資金の総額がいくらで、それらの資金をどこから調達するのか」という資金調達方法の詳細を記載する欄があります。
この欄はできる限り詳細かつ明確に記載してください。
自己資金なのか、家族からお金を借りるのか、出資を受けるのか記載しましょう。
そして、家族や知人から借りる場合には、返済方法や返済時期などを明確にすることによって、融資金の返済可能性などを審査することが可能です。
また、個人としてどの程度の借入金があるのかについても、詳細かつ正直に記載するようにしてください。
事業計画書や創業計画書は金融機関が雛形を用意していますので、雛形に沿って詳細かつ正確に記載していくことで審査で有利なものを作成することができます。
事業計画書や創業計画書は金融機関の担当者が作成をサポートしてくれることが多いので、不明点がある場合には、金融機関の担当者へ確認してみましょう。
個人事業主の開業資金融資についてよくある質問
個人事業の開業資金融資について、よくある質問として、以下のようなものがあります。
- 開業資金は複数回融資を受けることができますか?
- 開業資金融資を受けてからどのくらい後に追加融資を受けられますか?
- 法人と個人事業主の開業資金融資の審査に違いはありますか?
- 自己資金なしでも新規開業資金は受けられますか?
- 通りやすい開業資金はどれですか?
疑問点を解消して、開業に必要な資金をスムーズに調達できるようになりましょう。
開業資金は複数回融資を受けることができますか?
開業資金は2回以上の複数回融資を受けることは原則的に不可能です。
そして、事業資金は基本的には1年に1回の頻度でしか融資を受けられないので、開業資金融資を受けた後に通常の事業資金融資をすぐに借りることもできます。
そのため、最初に開業資金融資を受けたあと「やはり資金が足りない」という理由で、追加でもう1度開業資金融資へ申し込んでも審査に通過できない可能性が高いでしょう。
開業資金融資を受けたあとは、しばらくお金を借りられないということを認識し、不足がないよう開業時には十分を借りておくようにしてください。
開業資金融資を受けてからどのくらい後に追加融資を受けられますか?
基本的には1年後だと理解しておきましょう。
開業資金は原則的に開業から1年以内に受けられる融資で、開業資金を2回以上借りることはできません。
そして、開業から1年以上経過すると通常の事業資金融資を受けられるようになります。
そのため、開業資金融資を受けてから1年程度経過すれば、追加融資を受けることが可能です。
開業資金融資を受けたらその後1年間はお金を借りられないことを認識し、資金計画を立てましょう。
法人と個人事業主の開業資金融資の審査に違いはありますか?
法人と個人事業主で開業資金融資の審査の着眼点には基本的に大きな違いはありません。
どちらも事業計画や開業理由や自己資金などが確認されます。
ただし、法人の場合には事業に関係する税金の納税状況しか確認されませんが、個人事業主は個人の納税状況まで確認されるのが基本です。
また、事業の経費と生活費を区別できるかという点についても、個人事業主のみが審査されます。
これらの点で、個人事業主の方が審査で確認するポイントが多いので、この分は個人事業主の方が厳しく審査が行われるといえるでしょう。
自己資金なしでも新規開業資金は受けられますか?
自己資金なしでも新規開業資金を受けられる場合があります。
特に日本政策金融公庫の新創業融資制度は、開業時の職種が独立前の職種と同じであれば、自己資金の要件が撤廃されるので自己資金なしでも融資を受けられます。
また、銀行や信用金庫の開業資金融資や、制度融資においても自己資金が条件になってしない場合があるので、自己資金なしでも融資を受けることは可能です。
ただし、自己資金なしの場合には返済額が大きくなるので資金繰りは大変になります。
また、自己資金があった方が審査では有利になります。
自己資金なしでも開業資金融資を受けられる可能性はありますが、できれば必要総額の1割〜3割程度の資金を用意したうえで開業した方がよいでしょう。
通りやすい開業資金はどれですか?
開業資金融資は事業計画に対して審査が行われるので、どの融資の審査が甘いとか厳しいという明確な違いはありません。
ただし、日本政策金融公庫は開業支援に積極的で、新創業融資制度は金利が優遇され、一定の条件を満たせば自己資金なしでも低金利で借りられます。
いずれにせよ、日本政策金融公庫や制度融資は、事業計画に対して審査が行なわれるので、しっかりとした事業計画書さえ作成しておけば審査に通過できる可能性はかなり高いと言えるでしょう。
開業資金融資はどこへ申し込んでも事業計画さえしっかりとしいれば審査に通りやすい融資だといえます。
まとめ
個人事業主が事業を始める際には金融機関から開業資金融資を受けることができます。
開業資金融資の審査は事業計画に対して行なわれるので、業績から審査される通常の事業資金融資よりも審査に通りやすい融資だと言えます。
しっかりとした事業計画さえ作成していれば、誰でもお金を借りられる可能性があるでしょう。
しかし、開業資金融資は原則として1回しか借りられませんし、事業資金は一度融資を受けたら1年間はお金を借りることが不可能です。
そのため申し込みの際には1年間の経営計画をシビアに考え、経営が軌道に乗る前に資金が枯渇することがないよう、余裕をもった金額で申し込むようにしてください。
また、個人事業主が開業資金の審査を受ける際には、納税状況が必ず確認されます。
個人用の税金であっても、税金の滞納があった場合には審査に通過できないので、必ず税金滞納を解消した上で申し込みをおこなってください。