ファクタリングと債権譲渡は違いが分かりにくい部分があるので、相違点と共通点、両者の関係性を理解することが大切です。また、ファクタリングの際に求められることがある「債権譲渡登記」についても、正しく理解しておく必要があります。
そこでこの記事では、ファクタリングと債権譲渡の違いや両者の関係性を解説し、さらに債権譲渡登記とは何か、そのメリットや注意点を解説します。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、売掛債権を支払期日前にファクタリング業者に買い取ってもらうことです。売掛金から手数料を引いた額が利用者に振り込まれ、実際の売掛金はファクタリング業者が受け取ります。
実際の事業における取引では、納品物などに対する代金を納品後すぐに支払うのではなく、数週間後や数か月後に支払うことが少なくありません。このまだ支払われていない代金のことを売掛金といい、売掛金を受け取る権利のことを売掛債権といいます。
売掛金は資産ではありますがまだ現金化されていないため、支払期日が来るまでに現金が足りなくなってしまうこともあるでしょう。
このような時にファクタリングを利用すれば、支払期日前に現金を入手し資金繰りを改善できます。
債権譲渡とは
債権譲渡とは、広義には他者に債権を譲渡すること全般を意味します。
ファクタリングも債権をファクタリング業者に譲渡しているので、広義には債権譲渡の一種だといえます。しかし、一般に債権譲渡と言う時は、「代物弁済として債権を譲渡する」「不良債権をサービサーへ譲渡する」といった取引を指すことが多いです。
代物弁済としての債権譲渡
債務者が弁済のための現金を用意できない時、代わりに物品などを譲渡して弁済することがあり、これを代物弁済といいます。
一般には代物として不動産などが譲渡されることが多いですが、債権も代物として譲渡可能です。
債権の代物弁済に債権を使うというのは、具体的に言うと以下のようになります。
A社を債権者、B社を債務者とする債券があって、B社は現金が足りず弁済できないとします。
この時、もしB社を債権者、C社を債務者とする別の債権をB社が持っていれば、それをA社に譲渡することで債務を弁済できます。
サービサーへの不良債権の譲渡
サービサー(または債権回収会社)とは、支払期日が過ぎても支払いされていない債権(不良債権)を債権者から買い取る業者のことです。
買取後はサービサーが取り立てを行い、回収できた金額が債権の買取額を上回った時、その差額がサービサーの利益となります。
債権を業者に売却して現金を得る点はファクタリングと似ていますが、ファクタリングは支払期日がまだ来ておらず、不良債権化していない債権を対象とする点が違います。
不良債権の買取ができる業者はサービサーだけと法律で決められており、ファクタリング業者は不良債権を取り扱うことができません。
ファクタリングと債権譲渡の違い
ファクタリングは広義には債権譲渡の一種だといえますが、債権譲渡という言葉を代物弁済やサービサーへの譲渡という意味とみなした時、両者にはさまざまな点で違いがあります。
主な相違点をまとめると以下の4点となります。
- 目的の違い
- 対象となる債権の違い
- 関与する者の違い
- 対抗要件の具備の違い
目的の違い
ファクタリングと債権譲渡は、その目的に大きな違いがあります。
ファクタリングは債権を早く現金化して資金調達するためのもので、債権者側の事情で行われる取引です。債務者側の弁済能力に問題はなく、期日が来たらほぼ確実に弁済されるであろうことが前提となります。
一方、債権譲渡は不良債権または不良債権化のおそれがある債権をできるだけ回収するための取引で、弁済能力の不足という債務者側の事情で行われるものです。
対象となる債権の違い
ファクタリングと債権譲渡では、対象となる債権の種類に違いがあります。
ファクタリングの対象となるのは不良債権化していない売掛債権で、中には注文書などの将来債権を取り扱っている業者もあります。
手形のファクタリングは取り扱っていない業者が多いですが、一部取り扱っているところもあります。
手形を期日前に現金化するサービスに「手形割引」がありますが、手形割引は不渡りになると利用者が買い戻さないといけないので、不渡りになっても買い戻さなくていいファクタリングとは別物です。
債権譲渡は広義の意味でとらえた場合、原則全ての債権が対象となります。ただし、性質上債権者の変更ができない債権(慰謝料請求権など)や、法律上の制限がある債権(給与債権など)は除外されます。
サービサーが取り扱える債権は、「特定金銭債権」のみと法律で定められています。特定金銭債権とは、大まかに言うと破産した者が保有している債権などのことで、他には銀行ローンやクレジットのキャッシングなども含まれます。
関与する者の違い
ファクタリングと債権譲渡では、取引に関与する者に違いがあります。
まず、ファクタリングには「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」があり、両者で関与する者が違うのが特徴です。
2社間ファクタリングは債権者とファクタリング業者の間の取引で、債務者は関与しません。債務者にはファクタリングが行われた事実は伝えられず、期日が来たら通常どおり債権者に債務を弁済します。
一方、3社間ファクタリングは債務者にファクタリングを行うことを通知して承諾を得ます。そして期日が来たら、債務者は債権者ではなくファクタリング業者に債務を弁済します。
サービサーへの債権譲渡は、譲渡契約の当事者はサービサーと債権者の2者です。ただし、債務者への取り立てが目的なので、もちろん債務者も主要な関与者となります。
債権による代物弁済では、弁済対象となる債権の債権者・債務者に加えて、代物となる債権の債務者(第三債務者)が関与するのが特徴です。
対抗要件の具備の違い
対抗要件とは、権利の所有者が変わったことを他の者に主張するための条件のことで、登記などがよく知られた例です。
対抗要件を具備せずに債権譲渡すると、二重譲渡などの違法行為のおそれが出てくるので、一般に債権譲渡では対抗要件を具備します。
具体的には、以下のいずれかの手続きによって対抗要件が具備されます。
- 債権譲渡したことを債務者へ書面などで通知する
- 債務者に債権譲渡の承諾を得る
- 債権譲渡登記をする
債権譲渡では、債務者への通知や承諾によって対抗要件を具備するのが一般的です。また、3社間ファクタリングでは必ず債務者の承諾を得るので、これが対抗要件となります。
一方、2社間ファクタリングでは、債権譲渡登記によって対抗要件を具備する場合と、登記せず対抗要件を具備しないままファクタリングを行う場合があります。
対抗要件がないと二重譲渡の危険がありますが、2社間ファクタリングではこのリスクをファクタリング業者が負います。
ファクタリングと債権譲渡の関係性
ファクタリングでは債権者からファクタリング業者への債権譲渡が行われますが、譲渡しただけで終わりではなく、期日が来たら債務者から債権を回収して取引が完了となります。
しかも、実際に債権を回収するのは、2社間ファクタリングでは債権者、3社間ファクタリングではファクタリング業者と、ファクタリングの種類によって違ってきます。よって、それぞれの関係性を理解しておくことが重要になります。
2社間ファクタリングでは債権者が回収業務を行いますが、業者側としては、債権者が回収業務を怠ったり、回収した資金を業者に入金せずくすねるといった行為を防止しなければなりません。
そのため、2社間ファクタリングの契約では、債権譲渡契約に加えて、債権者がきちんと回収業務を行う義務を負う「回収代行の業務委託契約」を締結します。
一方、3社間ファクタリングでは回収業務はファクタリング業者が行うため、債権譲渡契約に加えて、ファクタリング業者が債権者の代わりに回収業務を行う「回収代行契約」が締結されます。
ファクタリングと債権譲渡の関係性をまとめると以下のようになります。
- 2社間ファクタリング=債権譲渡+回収代行の業務委託
- 3社間ファクタリング=債権譲渡+回収代行
債権譲渡登記とは
債権譲渡登記とは、債権譲渡によって債権者が変わったことを登記によって公に示すことです。
売掛債権は物品などの動産と違って実体がなく、手形のような証券もありません。よって、「自分こそが本当の債権者だ」と名乗る第三者が現れた時に、それを拒否できる手段を持っておく必要があります。
債権譲渡登記をしておけば、登記を根拠に自分が正式な債権者であると主張できます。
債権譲渡登記は「第三者対抗要件」のみを具備する
債権譲渡の対抗要件には「第三者対抗要件」と「債務者対抗要件」の2種類があり、債権譲渡登記は第三者対抗要件のみを具備します。
第三者対抗要件とは、自分が正式な債権者であることを第三者に対して主張するための条件のことです。これにより、1つの債権を複数の者に譲渡する「二重譲渡」を防ぐことができます。
そして、債務者対抗要件とは、自分が正式な債権者であることを債務者に対して主張するための条件のことです。これにより、債権者と名乗る複数の者に債務を弁済してしまう「二重払い」を防ぐことができます。
一般的な対抗要件の具備方法である「債務者への通知または承諾」は、第三者対抗要件と債務者対抗要件を両方具備できます。
一方、債権譲渡登記は債務者対抗要件を具備できませんが、債務者の許可なく第三者対抗要件を具備できるメリットがあります。
ファクタリングで債権譲渡登記をする場面
ファクタリングで債権譲渡登記をするのは、2社間ファクタリングを行う時です。
3社間ファクタリングは債務者に承諾を得るのでこれが対抗要件となりますが、2社間ファクタリングは債務者が関与しないので別途対抗要件を具備する必要があります。
2社間ファクタリングは債務者に知られないことが重要なので、通知や承諾ではなく債権譲渡登記を利用することになります。
ただし、債権譲渡登記は全ての2社間ファクタリングに必須というわけではなく、登記せず2社間ファクタリングができる業者もあります。
債権譲渡で債権譲渡登記をする場面
債権譲渡における対抗要件は、債務者への通知や承諾によって具備されるのが一般的です。
しかし、譲渡する債権の数が多い、または債務者の数が多いため通知・承諾では手間がかかり過ぎる時は、より簡便な手段として債権譲渡登記を利用することがあります。
ファクタリングで債権譲渡登記するメリット
債権譲渡登記をすると二重譲渡を防止できるので、ファクタリング業者のリスクが少なくなります。
業者のリスクが少なくなると、その分手数料を安くできたり審査に通りやすくなるので、利用者側にもメリットがあります。
ファクタリングで債権譲渡登記する際の注意点
ファクタリングで債権譲渡登記すると手数料や審査の面で有利になりますが、一方でいくつか注意点もあります。
以下の4つの注意点を踏まえたうえで、メリットと比較して登記するか決めるようにしましょう。
- 費用がかかる
- 個人事業主は債権譲渡登記できない
- 売掛先に知られる可能性がある
- 融資の審査に影響が出る場合がある
費用がかかる
債権譲渡登記は登記費用が1件につき7,500円(債権の数が5,000個を超える場合は15,000円)かかり、登記を司法書士が代行すればその費用もかかります。
この費用がファクタリングの手数料に上乗せされた場合、その分受け取れる金額が少なくなってしまいます。特に、少額のファクタリングは登記コストの割合が相対的に大きくなるので注意が必要です。
個人事業主は債権譲渡登記できない
債権譲渡登記ができるのは法人だけなので、個人事業主のファクタリングでは利用できません。もし個人事業主が2社間ファクタリングを行いたい場合は、登記なしでできる業者を探す必要があります。
売掛先に知られる可能性がある
2社間ファクタリングは売掛先(債務者)に知られずに行えるのが特徴ですが、債権譲渡登記は誰でも閲覧できるので、売掛先が登記を閲覧する可能性もあります。
融資の審査に影響が出る場合がある
融資の審査で債権譲渡登記の有無を確認された場合、資金繰りが苦しいと判断され、審査に不利になる可能性があります。
まとめ
ファクタリングは債権者が資金調達のためにファクタリング業者に債権を売却する取引で、代物弁済やサービサーへの債権譲渡とはさまざまな点で違いがあります。
債権譲渡登記は審査の面では有利になりますが、手間がかかるので早く現金化したい場合は登記なしで利用できる業者を選ぶのがおすすめです。