注文書買取の利用を検討しているが、メリット・デメリットなど詳しい仕組みや内容を知りたいと考えている中小企業の経営者や個人事業主は多いでしょう。注文書買取は、国内では新しい資金調達の手法であるため、利用している方が少ないためです。
注文書買取は、従来のファクタリングや銀行融資にはない特徴を持った資金調達方法です。この記事では、注文書買取のメリット・デメリット、従来のファクタリングとの違いなどを詳しく解説します。
この記事を読めば、注文書買取について詳しく理解でき、経営に有効活用できるようになるでしょう。
注文書とは?
注文書とは、商品やサービスなどを提供する企業(受注者)に対し、注文する側(発注者)が作成・交付する帳票です。PO(purchase order)ともいいます。これに対し、受注者が注文を引き受けるという意思表示をするために発注者に交付するのが、注文請書(発注請書)です。
国税庁のホームページによると注文書には、以下の内容を記載することが求められています。
- 書類作成者の氏名又は名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 取引金額(税込み)
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
実際のビジネスシーンでは注文書を交付せずに、口頭やメールなどで取引を進めることもあります。当事者が合意すれば契約は口頭でも成立するため、売買契約で必ず注文書を交付しなければならないというわけではないのです。しかし、注文書を交付することで、「取引内容」「取引金額」などを書面で確認できるため、認識の食い違いなどのトラブルを防ぐことができます。
なお、下請法が適用になる取引では、「基本的に、親事業者(発注者)は下請事業者(受注者)に発注書(注文書)を交付しなければならない。」ことが定められています。下請法違反にならないよう、注意が必要です。
注文書と発注書の違い
注文書と発注書は、法律的には同じ帳票です。企業や業界によっては、形のある商品や製品を注文するときは「注文書」、形のないサービスなどを発注する場合は「発注書」を作成、交付するといった使い分けをしているところもあります。
具体的には、パソコンやデスクなどの商品を注文する際は「注文書」、ホームページ制作や動画作成などのサービスを依頼する際には「発注書」を作成、交付するといったことです。
注文書と請求書の違い
注文書と請求書は、発行する意味やタイミングが違います。売り手側が提示した見積書に対して、買い手側が「発注します」という意味で出すのが「注文書」です。
請求書は、代金の支払いを求めるために発行する帳票です。発行するタイミングは、商品やサービスなどを納品した後になります。業種によっては仕事が完了するまでに長期間かかるため、注文書を受領してから請求書を発行して代金が支払われるまでに6ヶ月以上のタイムラグが発生することもあります。
注文書 | 請求書 | |
---|---|---|
目的 | 商品やサービスの発注 | 売掛金の請求 |
発行するタイミング | 売り手側企業の見積書を確認し発注することが確定したとき | 商品やサービスを納品し、買い手企業の検収が完了したとき |
発行されてから入金までの日数 | 注文書を受領してから仕事が完了するまでの期間によって異なる | 1~2ヶ月程度 |
注文書買取とは?
注文書買取とは、注文書を債権と見なし、債券を買取業者に売却することで資金化できるサービスです。
注文書買取の流れ
注文書買取の流れは、以下の通りです。
- 商品やサービスの買い手側が自社(売り手側)に注文書を発行
- 自社は注文書買取業者に注文書の買取を依頼
- 注文書買取契約の締結
- 注文書買取業者が自社に手数料を差し引いた買取代金の入金
- 商品・サービスの納入後、請求書の発行
- 売掛金の入金日に、注文書買取業者に支払い
注文書買取と従来のファクタリングの違い
注文書買取と従来のファクタリングは、資金調達可能なタイミングや入金サイクルの短縮期間が違います。
注文書買取は、仕事を着手する前の注文書を受領した段階で資金調達ができるサービスです。従来のファクタリングは、納品完了後、請求書(売掛債権)の発行段階で資金調達ができます。
注文書買取は注文書を受領してから売掛金を回収するまでの最大6ヶ月、従来のファクタリングは請求書を発行してから売掛金を回収するまでの1~2ヵ月程度、入金サイクルを短縮することが可能です。
注文書買取と従来のファクタリング・銀行融資との比較
注文書買取 | 従来のファクタリング | 銀行融資 | |
---|---|---|---|
手数料 | 2.5%~ | 1.5%~ | 1%~ |
メリット | 仕事着手前のタイミングで資金調達が可能 | 請求書(売掛債権)の売却で最短当日の入金が可能 | 金利が安く、返済期間も長く設定できる |
審査難易度 | 審査は通りやすい(発注先企業の倒産リスクが無ければ基本的に利用可能) | 2社間であれば通りやすい。3社間の場合、企業の信頼レベルにより審査に通りにくくなることもある。 | 融資の審査が厳しく、入金まで時間がかかる。 |
入金のタイミング | 注文書を受領した後 | 請求書を発行した後 | どのタイミングでも申し込みは可能 |
振込までの日数 | 最短翌日 | 最短当日 | 1ヶ月程度 |
利用額 | 10万円~3億円程度 | 50万円~3,000万円程度 | 1,000万円~3億円程度 |
必要書類 | ・注文書(発注書) ・通帳3ヶ月分(表紙付き) ・本査定申込書 |
・身分証明書 ・決算書 ・通帳3ヶ月分(表紙付き) ・取引内容履歴の確認書類 ・売掛先との契約書類 ・発注書、納品書、請求書 |
・経営計画書 ・商業登記簿謄本 ・決算書類一式 ・月次決算表(月次試算表) ・今後の資金繰り計画書 ・損益計算書 ・借入申込書、納税証明書など |
リスク | ノンリコースで補償リスク無し。(債権回収不能になっても、利用者がリスクを負うことはない。) | 売掛債権の資金化について売掛先の承諾が必要な場合は、手数料が高くなることがある。 | 融資を受けた会社が倒産・破産した場合、連帯保証人が債権を弁済する責任を負う。 |
注文書買取と従来のファクタリングの使い分け
注文書買取は、仕事を受注した時点で資金調達ができます。仕事の開始前に人件費や仕入れ費用、外注費などの資金の準備が間に合わない場合に利用するのがおすすめです。
従来のファクタリングは仕事を納品した後、請求書を発行した時点で資金調達が可能です。売掛金が入金されるまで1~2ヶ月程度ですが、入金サイクルを早めたい場合やつなぎ資金を確保したい場合に利用しましょう。
注文書買取の申し込み手順
注文書買取の申し込み手順は、以下の通りです。
- 申し込み
- ヒアリング
オペレーターが申し込み内容をヒアリングで確認。 - 必要書類の提出・審査
「注文書(発注書)」「通帳3ヶ月分(表紙付き)」「本査定申込書」を提出。 - 契約・振込
審査・契約が完了したら、最短翌日、指定の口座に資金が振り込まれます。
注文書買取のメリット
注文書買取は、従来のファクタリングや金融機関の融資などにはなかった特徴を持つ資金調達方法です。メリットを理解して、効率的に利用できるようにしておきましょう。
注文書の交付を受けた時点で資金調達ができる
注文書買取は従来のファクタリングより早いタイミングで資金調達ができるため、これまで資金不足で諦めるしかなかった大型案件や複数案件を受注できるようになります。注文書買取を有効に活用すれば、自社の受注拡大や売上増に繋げることも可能です。
注文書(発注書)が手元になくても、注文書以外のメールなどで仕事の受注が確認できれば買取に対応してくれる業者もあるため、相談してみましょう。
申し込みから入金までがスピーディ
注文書買取を扱っている業者は、利用者が申し込んでから最短翌日には入金してくれます。銀行融資などと比べると、非常にスピーディな資金調達が可能です。
入金サイクルを最大で6ヶ月(180日)短縮する効果がある
注文書買取サービスを行っているビートレーディングやGMOペイメントゲートウェイでは、最大6ヶ月先に納品予定の注文書を買取対応しています。支払いサイトを短くしたい中小企業の場合、注文書買取をうまく活用すれば資金繰りを安定させることができるでしょう。
売掛先の承諾が不要の2社間契約
注文書買取は、利用者と注文書買取業者の2社間契約です。2社間で売買契約を結ぶ際には、売掛先への通知や承諾は不要です。そのため、売掛先に不信感を持たれる、取引に悪影響が出るといったこともありません。
償還請求権・買取請求権がないノンリコース契約
注文書を買取業者に売却して代金を受け取る注文書買取は、手数料がかかりますが発注者が倒産してもサービスの利用者に売却代金返還義務はありません。買取した債権が回収不能になっても、利用者に補償を求めることはないノンリコース契約です。
様々な案件の買取が可能
注文書買取は、公共工事、公共施設の警備・清掃などの国や自治体の仕事、システム開発や建設など納品まで長期間かかる仕事といった様々な案件の買取に対応しています。
信用情報に記録が残らない
注文書買取は銀行融資などの借入ではないため、信用情報に記録されることはありません。
銀行融資の審査に落ちた場合も利用できる
注文書買取の場合、赤字経営や税金滞納といった状況でも、売掛債権の信用度が重視されるので審査に通る可能性があります。融資ではないので、担保も保証人も不要です。
個人事業主でも利用できる業者がある
「BESTPAY」と「ビートレーディング」の2社は、注文書買取サービスを個人事業主にも提供しています。ビートレーディングは、売掛先が法人の場合、個人事業主も利用可能です。
債権譲渡登記は省略可能
仕事を受注した時点で売掛債権は発生しているため、業者に債権を売却する際は、「債権譲渡登記」が必要です。債権譲渡登記とは、債権が譲渡されたことを法務局に申請して登記することです。注文書買取では、利用者から買取業者に売掛債権が譲渡されたことを第三者に公にするため、本来は債権譲渡登記をしなければなりません。
ただし、「ビートレーディング」と「GMOペイメントゲートウェイ」は、債権譲渡登記を省略して買い取ってくれます。
注文書買取のデメリット
早いタイミングで資金調達が可能なことなど従来の資金調達方法にはないメリットを持つ注文書買取ですが、手数料が高いなどのデメリットもあります。デメリットを理解した上で、自社に最適なタイミングで注文書買取を利用しましょう。
手数料が高め
注文書買取の手数料は、通常のファクタリングより高く設定されています。通常のファクタリングに比べて、買取代金が未回収になるリスクが高いためです。
通常のファクタリングは、商品やサービスの納品完了後、請求書を発行して売掛金の支払いを待つだけという状況です。
一方、注文書買取では仕事の着手前に資金を提供し、納品完了後、売掛金が支払われ資金を回収するまで長期間かかります。この間、注文先の倒産などによって資金が回収できなくなるリスクもあるため、業者は手数料を高く設定しているのです。
東証一部上場のGMOペイメントゲートウェイの場合、請求書買取の手数料が1.5%~10.0%であるのに比べ、注文書買取の手数料は2.5%~12.0%と高く設定されています。他の業者でも注文書買取は、従来のファクタリングより手数料が1%~5%高く設定されていることがほとんどです。
注文書買取を扱っている業者が少ない
国内では、従来の請求書を買い取るファクタリング業者に比べ、注文書買取を扱っている業者は少ないのが現状です。そのため、複数の業者から、手数料などの相見積もりを取って比較検討するのが難しいというデメリットがあります。
しかし、注文書買取は、銀行などの金融機関の融資制度を補完し中小企業の資金繰りを助ける手法として政府も推奨しています。
注文書の額面より大きい資金調達はできない
注文書の額面から手数料を差し引いた額が入金されるので、額面以上の資金調達はできません。
注文書買取は自社に最適なタイミングで利用しよう!
注文書買取は、仕事を受注した時点でスピーディに資金調達ができることなど、これまでの金融機関の融資やファクタリングなどに比べてもメリットの多い資金調達の手法です。しかし、融資やファクタリングより手数料が高いなどのデメリットもあります。
毎回、注文書買取を利用していては、手数料が高い分、資金繰りが厳しくなります。これまでにない大型案件を受注できそうなときなど、適切なタイミングで利用するのが有効です。従来のファクタリングや金融機関の融資などと組み合わせて利用することによって、取引先の拡大や売上増が期待でき資金繰りも安定させることができるでしょう。